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ゆうこ

第1話 会社を辞めた時の保険のお話

 プログラマーとして会社に勤めていたゆうこ。ひょんなことから独立を決意し、会社を辞める。だが開業するとなると何をどうしたらよいのか…。そんなゆうこが独立して仕事をしていく過程を掲載していきます。

 ゆうこ26歳、独身。コンピュータ関係の専門学校を卒業後、プログラマーとして会社に勤め5年。仕事に追われる日々。会社での技術には精通していくが、最新のプログラム技術などの勉強が追いつかないことが不満になっていた。やりたいこと、勉強したいことがたくさんあり、まとまった時間を持てるようにしたいと思っていた。
 そんな中、マーク・ザッカーバーグの映画「ソーシャル・ネットワーク」を見て、ゆうこの頭の中に電撃が走る。…これは私も起業するしかない!と。思い立ったら吉日、その後すぐに会社に退職願を提出。同僚や上司からなぜ突然辞めるのかと聞かれるが、「決め手は映画です!」とは言えず「花嫁修業です」と答えたところ、何とも渋い顔をされた。両親に寄生し家事もほとんどしてこなかったため、料理はろくに出来ず職場のデスクはいつも散乱、その上異性への理想は無駄に高い…これまでの行いが微妙な説得力を持たせた。もちろん信じていない人も多い。
 家族には本当の退職理由を話した。役所勤めの父はやはり反対した。しかしゆうこが必死に説得すると、好きにしなさいと呆れ顔で言った。何だかんだ言っても、娘に甘い父である。母は楽天的な性格からか、むしろ面白がって話を聞き、応援してくれた。この母にこの娘あり、といったところか。新社会人となる弟は「へぇ…」と一言。関心のない様子。自分のこれからの社会人生活のことで頭がいっぱいなようだ。まだ高校生の弟も、姉の退職など他人事である。
 
 なんとか会社を退職したゆうこ。
 はりきって起業について考えてみるが、「えーと、どれから手をつければいい?そもそも何をすればいいの?てか何もかも分からない…」という状況に陥ってしまった。「いや待てよ、起業の前にまず保険や年金はどうしたらいいの?」

 独立を決めたら、自分で全てを抱え込むのではなく、分からないことは税理士や専門家に聞いてみる、相談するのが一番早いです。
 今回はまず、「会社を退職してからの健康保険・国民健康保険について」のお話です。

 

健康保険か国民健康保険を選ぶ

 会社員は、会社で社会保険に加入していると思います。給与明細を見ると健康保険と厚生年金保険が控除されていませんか?この金額は会社と折半されています。国民健康保険は全額自己負担となっています。会社を退職したら、加入している社会保険に任意継続するのか、国民健康保険に加入するのかを選択して手続きをします。

【退職後の健康保険制度の選択肢】
1.退職前の健康保険の任意継続加入
保険料は会社で折半していた分も自己負担するので今までの倍となります。加入期間は2年間です。
任意継続できるのは、退職日までに継続して2ヶ月以上健康保険に加入している必要があります。
また退職日から20日以内に申請をしてください。提出先は加入していた健康保険組合等です。

<任意継続の申請手続きに必要な書類>

  • 健康保険任意継続被保険者資格取得申出書
  • 退職日の確認が出来る書類(退職証明書、離職票、健康保険被保険者資格喪失届等)
  • 被扶養者がいる場合、収入を証明する書類

 

2.国民健康保険に加入
保険料は前年の所得、加入する世帯の人数により計算されます。
国民健康保険は、住んでいる市区町村で手続きを行います。退職日から14日以内に届出をしてください。

〈国民健康保険の申請手続きに必要な書類〉

  • 退職日の確認できる書類

 

タクソノミー

第2話 健康保険の移行しました、そして年金について

 役所に行き、国民健康保険の加入手続きを済ませたゆうこ。
 平日の夕方、帰り道に空を見上げると夕陽がとてもきれいだった。夕陽を見るのも久しぶりだったが、こうして空を見上げるということもずいぶんとしていなかったのだなぁと、これまで心の余裕もなく家と会社の往復ばかりしていたのだと気づくのであった。

 その夜、帰ってきた父が「今日役所に来たんだってな。父さんちょうど外出していたんだが、ちゃんと手続きは済ませたのか?」と心配な様子で聞いてきた。
 父は役所勤めである。ゆうこが会社を辞める話をした時に、退職後に役所で行う手続きについてあれこれと話をしてくれたのだが、その時ゆうこは円満退社するためにどうしようかということで頭がいっぱいで父の話がまるで頭に入っていなかった。上の空で「うん、うん」とだけ返事をする様子を見ていた父は、もういい年の娘だが心配であった。
「ちゃんと健康保険の加入手続きしてきたよ。でも私これまで病気も怪我もほとんどしていないのに、保険料払っているだけで損だなぁ」
 そうぼやいていると、父は
「今までがそうだったからって、これからいつ保険のお世話になるか分からないんだからな。それに、健康保険というのは病気や怪我の医療費だけじゃなくて、出産するときには一時金や、亡くなった時には葬儀費用の援助も受けられるんだよ。保険への加入は義務だが、いざという時のために、自分と家族のためにもきちんと納めておかないとね。」
と言った。
 これまで病気や怪我とはほぼ無縁だったゆうこ。会社に勤めていた五年間も無遅刻無欠勤。繁忙期、疲労により次々と社内の人間がダウンし、風邪やインフルエンザが蔓延していく中、一人ピンピンしており周囲から鉄人とも呼ばれていた。
 父の言うとおり、今が健康だからと言って、いつ何があるか分からない。会社を辞めたので当然、有給休暇などもうない。これから独立し仕事をしていくので尚更、体が資本だなぁと、健康管理には気をつけなければ、とあらためて思うのであった。
「あとは年金の変更手続きもしないとな」
「…お父さん、年金の変更手続きには何が必要なんでしたっけ?」
「やっぱりこの間話したとき聞いていなかったな…やれやれ」
 父は呆れながらも、また説明をしてくれたのだった。

【個人事業主の年金制度のしくみ】
 国民年金には第1号被保険者、第2号被保険者、第3号被保険者の3種類あります。

  • 第1号被保険者 20歳以上60歳未満の自営業、学生、配偶者など
  • 第2号被保険者 厚生年金に加入している会社員、公務員など
  • 第3号被保険者 第2号被保険者に扶養されている配偶者(年収が130万未満)

 個人事業主は、国民年金(第1号被保険者)に加入することになります。会社を退職したら厚生年金から国民年金へと切り替える手続きをしなければいけません。また第3号被保険者の配偶者がいる場合、配偶者も第3号から第1号へ切り替える手続きが必要です。国民年金は誰でも同じ金額となります。令和4年度の1ヶ月あたりの保険料は16,590円です。また、まとめて前払いをすると割引が適用されます。6ヶ月、1年、2年から選べます。現金納付より口座振替のほうが割引率が高くなっています。お金に余裕があれば検討してみましょう。


【変更手続きに持参する物】

  • 年金手帳(配偶者の手続もするなら配偶者分も)
  • 退職した日を確認できる書類(退職証明書、離職票など)

 退職日の翌日から14日以内にお住まいの市区役所にて手続しましょう。

 後日、離職票が届いたゆうこは役所に行き、国民年金への加入手続き済ませた。会社を退職後に必要な手続きを終えたので、次は開業に向けての手続きをしていくことになる。

「鈴木さんに連絡を取ってみよう」
 ゆうこは元上司の鈴木に連絡を取った。鈴木は、ゆうこが新入社員だった頃に特にお世話になっていた上司で、現在はフリーランスでプログラマーをしている。鈴木が会社を退職した後も、たまに飲みに行くなど付き合いを続けている。同業の先輩にいろいろと教えを乞うことにした。

 

タクソノミー

第3話 相談相手の選び方

「おじゃまします」
 鈴木に連絡を取ったゆうこは、鈴木の自宅に招かれた。
「悪いね、こっちまで来てもらっちゃって」
「いえ、こちらこそお忙しいところすみません」
 鈴木は小学1年生になる娘を持つ主婦である。2年前に会社を退職し、現在はフリーランスで在宅プログラマーをしている32歳。面倒見の良い鈴木にゆうこは公私ともに世話になっていた。仕事と育児を両立する鈴木を、ゆうこは仕事の先輩としても女性としても尊敬している。

「急に会社辞めて独立するだなんて、びっくりしたよー」
「将来的には、とは考えていたんですが、早くてもいいかなと思い勢いで決めちゃいました」
 独立しようと決めたのは映画の影響なんです、とはさすがに言えず、ゆうこは笑いながら言葉を濁した。
「自宅を事務所にして始めます。この仕事なので設備投資は少なくて済みますし、あと領収書・請求書などを準備したり、販促ツールを作ろうかと。あと開業前の準備は何をしたらいいでしょうか」
「開業前の準備ねぇ。業種によっては許認可が必要になるからその手続きね。飲食店で営業許可証っていうのが飾ってあるのを見たことがあるでしょう?」
「あります!」
「あれよ、あれ。うちは旦那が飲食店を始めるのに食品営業許可の手続きをしたわ。まぁプログラマーは許認可が必要な業種に該当しないから、これは必要ないけどね」

※許認可手続きを行う窓口は業種により異なります。(保健所や警察署、ハローワーク、税務署、都道府県庁など)自分の業種がどこの窓口なのかは各窓口機関のホームページで確認出来ます。許認可手続きは行政書士が行っていますが難しくなければ自分で手続することもできます。

「あと専門家の相談相手を見つけることかな。独立開業するのに、自分では分からない問題も多いからね。自分でやろうとして時間がかかって、本業がおろそかになったら本末転倒よ。それに専門家にきちんとアドバイスをもらえれば、本業にも集中できるからね」
「なるほど。鈴木さんはそういった相談相手はどうやって探したんですか?」
「知り合いから紹介してもらったり、インターネットでも調べたりしてね。例えば開業する時に税務署に提出する開業届とか、確定申告の相談をするなら税理士ね。私がお世話になっている税理士を紹介しようか?」
「ぜひ、お願いします!」
 こうしてゆうこは鈴木の紹介により、税理士の藁を紹介してもらう。開業にあたっての相談と手続きを進めていくのだった。

【相談相手について】
 独立開業するにあたり、誰しも初めてのことばかりで分からないことがたくさんあると思います。そんなとき税理士や弁護士などの専門家は心強い相談相手となるでしょう。ネットで検索すれば何でも調べられる時代ですが、ネットの情報だけで何でも決めてしまうのは危険です。専門家はその選択でどんなことが起きるかさまざまな場面を想定して教えてくれるでしょう。

【専門家】

  • 税理士
    税金、確定申告
  • 社会保険労務士
    社会保険、労働保険、雇用保険
  • 行政書士
    許認可、登録
  • 司法書士
    登記申請、契約書の作成、抵当権の設定・抹消
  • 弁護士
    特許、商標権、法律全般
  • 中小企業診断士
    経営指導、企業診断


 上記のように、さまざまな専門家がいます。また専門家も人間ですので、その人の雰囲気・考え方・仕事のやり方・顧問料などそれぞれ違います。当然、自分と合う合わないがあります。最初の1人で決めるのではなく、複数人と会って話をして、この人にだったら任せられる!と感じた方にお願いするといいでしょう。

タクソノミー

第4話 開業時に提出する書類・青色申告について

 開業準備を始めていたゆうこ。フリーランスの先輩でもある元上司の鈴木を始め、同業者や他業種でも独立して仕事をしている知人をあたり、開業後の仕事の流れや経験談など、いろいろな話を聞いてまわっていた。
 ゆうこは一見しっかりしているようで、実際はお調子者な面もあり、昔からどこか危なっかしいところがあった。愛想はあるので、周囲の人間はついつい世話を焼いてしまう。今回も急に独立すると言い出したので、周囲は大丈夫なのかとあれこれ心配をしているのであった。こういった世話焼きな知人・友人のおかげで今日のゆうこがいると言える。

 開業後の仕事のことで頭をいっぱいにするゆうこであったが、肝心の「開業」をまだしていない。
 鈴木に紹介してもらった税理士の藁を訪ね、開業にあたっての相談を聞いてもらい、開業の手続きを教えてもらうのであった。

【個人事業の開業・廃業等届出書】
 開業する個人事業主は、「個人事業の開業・廃業等届出書」を税務署に提出します。
 提出期限は、開業の日から1か月以内です。提出期限が土日・祝日に当たる場合は翌日が期限となります。

 提出先については、まず「納税地」をどこにするかで決まります。ゆうこの場合、自宅を事務所にするので納税地は自宅になります。多くの個人事業主も自宅を納税地としていますが、事務所・店舗の所在地を納税地とすることも可能です。
 届出書が完成したら控え用としてコピーをしましょう。提出と同時にその控えに受付印を押してもらいます。この控えは金融機関などで必要になる場合があります。
 届出書の提出は、税務署に持参するか、郵便でも提出することができます。郵送で提出する場合は、控えを返送してもらうため切手を貼った返信用封筒を同封するのを忘れないでください。

 「開業届を提出すると同時に検討したいことなんですが、所得税の申告方法を青色申告にするか、白色申告にするか、どうしましょうか」
 藁から質問されるが、ゆうこはまずそれぞれの意味が分からない。それをすぐに察知した藁は、質問に続けて説明を始めた。

【青色申告と白色申告】
 確定申告には青色申告と白色申告の2つの申告方法があります。青色申告の場合、事前に申請書の提出と複式簿記による帳簿の作成が必要になります。白色申告は複式簿記の帳簿が必要ないため青色より簡単です。しかし青色申告の制度は所得税上メリットが大きいです。

  1. 青色申告特別控除
    所得金額から10万円控除または55万円(最高65万円)控除できる制度です。簡単に言うと所得税が安くなります。

    【55万円控除を受けるための要件】
    ・複式簿記により記帳していること
    ・それに基づいて作成した貸借対照表・損益計算書を確定申告書に添付すること
    ・その年の確定申告期限までに申告書を提出すること

    【65万円控除を受けるための要件】
    ・上記の55万円控除の要件に該当していること
    ・その年分の仕訳帳、総勘定元帳について電子帳簿保存を行っている、またはその年分の確定申告書の提出を提出期限までにe-taxを使用して電子申告を行うこと

    【10万円控除】
    上記の55万または65万円の控除の要件に該当しない青色申告者が10万円控除を受けられます。
     
  2. 青色事業専従者給与
    家族で経営している場合その家族に給与を支払うことがありますが、この給与は原則経費になりません。
    下記の要件を満たせば家族に支払う給料を経費とすることができる制度です。

    ・青色申告者と生計を一にする配偶者その他親族であること
    ・その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること
    ・その年を通じて6ヶ月以上、専ら従事していること(一定の場合は従事することができる期間の半分以上)
    ・「青色事業専従者給与に関する届出書」を所轄税務署長に提出していること

    白色申告の場合、「事業専従者控除額」として年間で控除できる金額が決まっています。
    下記のいずれか低い金額です。
     (1) 配偶者86万円、配偶者以外の専従者50万
     (2) 事業所得等の金額を専従者の数に1を足して割った金額(事業者所得とは収入から経費を引いた金額です。)

    例えば、収入200万円、経費50万、専従者(配偶者)が1人だった場合
    (200万-50万)÷(1+1)=75万
    (1)の金額より、(2)で計算した金額の方が低いため、事業専従者控除額は75万円となります。
     
  3. 純損失額の繰越控除
    赤字になった分を翌年以降3年間の繰り越しができ、その年の所得からマイナスして税金を計算することができる制度です。

    例えば、1年目-100万、2年目-50万、3年目+100万、4年目+100万だった場合。
    1年、2年目は赤字だったので所得税は0円です。
    3年目は100万の黒字になりましたが、1年、2年目の赤字-150万を繰り越しているので、差引-50万です。3年目も所得税は0円です。
    4年目は100万-50万=50万になり、繰り越してきた赤字がなくなったので50万から所得税が計算されます。

青色申告を受けるためには、「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出します。
提出期限
・開業日が1月1日~1月15日の場合→開業した年の3月15日
・開業日が1月16日~12月31日の場合→開業した日から2か月以内

青色申告の申請書を提出しない人は白色申告になります。
2014年1月から白色申告も記帳・帳簿等の保存が義務化されました。節税のメリットを考えると青色申告の方が圧倒的にお得だと思います。

「藁先生、青色申告にしたいです…!」
こうしてゆうこは開業の届出と、青色申告の申請をしたのであった。
 

タクソノミー

第5話 資金計画の立て方

半ば勢いで独立を決意し、会社を退職したプログラマーのゆうこ。税理士・藁に開業にあたっての相談をし、手続きについて教えてもらう。そして開業届を提出し、いよいよ開業をしたのであった。

コンコン、と扉をノックする音と同時に、入るわよ~と母が声をかけて部屋に入ってきた。「洗濯物乾いたやつと、あと郵便が来てたわよ」と言うと母は、きれいにたたまれた洗濯物と郵便物をテーブルの上に置いた。まわりの友人たちは、一人暮らしで自分の家事は自分でしていたり、もう結婚している友人に関しては家族の分まで家事をしているというのに、全くもってありがたいことである。

「ありがとう」ゆうこはパソコンと向き合いながら礼を言う。ん~と何か考えこんでいる様子の娘に母は「何うなっているの?」と聞く。ゆうこは振り返り、母の方を向く。「資金の計画表を作っていたの。私、開業準備にはあまりお金がかからなかったからお金のことって漠然としか考えていなかったんだけど、これからのお金のことをちゃんと考えておかないとって思って」

ゆうこは自宅を事務所としており、プログラマーという仕事であることもあって、開業自体には費用があまりかからなかったのだ。しかし、これから仕事を始めてお金が入ってくるまでには少し時間がかかる。会社勤めの時のように毎月きちんと収入があるわけではない。

「お金の計画は大事よ~。お母さんも、子供3人育てるのに家計のやりくり大変だったんだから~」母は思い返すように話し始める。
「毎月かかるお金はもちろん、更新のお金とかその時々にかかるお金も把握しておかないとね」
お母さんも昔こんなことがあったわ~とか、3人も子供がいると出費が重なることも多くてね、などあれこれ話してくれるのだが、話の内容がだんだんとずれてくる。そして母は一度話し始めると長い。そろそろ続きをするから、と言ってゆうこは話を終わらせた。母は、まあ頑張りなさい、と言って部屋を出た。

 

開業すぐはまだ収入も不安定です。無計画では最悪の場合すぐに廃業になってしまうかもしれません。
そうならないためにも、しっかりとお金の計画が必要です。まず開業準備に必要な開業資金と開業後に必要な運転資金に分けて考えていきましょう。
 

1.開業準備のための資金計画

開業のための準備開始から営業開始までの開業資金を考えます。
開業するにあたって、いくら必要なのかを書き出しましょう。
書き出していくことで全体を把握していきます。

事務所や店舗を借りる場合は家賃、敷金、礼金、保証金、仲介手数料が必要です。店舗を改装する場合には内装や外装の工事費用が必要です。
パソコン、電話、机、椅子など什器備品の購入や開業を告知するための広告宣伝費、商品・材料の仕入等が必要になります。


2.開業当初の運転資金の把握

次に開業してから軌道に乗るまでの期間にいくらのお金がかかるのかということを把握することが必要です。
売上がなくても家賃や誰か雇用をしている場合は人件費、商品の仕入、水道光熱費などの経費は毎月支払わなければなりません。毎月営業していくために必要な資金のことを運転資金と言います。
まずは開業してから3ヶ月間の計画を立ててみましょう。一般的に運転資金は3ヶ月分あれば売上が急激に落ち込むなど何かあったときにも安心と言われています。また融資が認めてもらいやすいのも3ヶ月分と言われています。

実際どのくらい必要か想定するのは難しいときは、家計を参考におおよその金額を考えてみましょう。
想定した金額と実際にかかった費用を比べて、経費に対して意識していくことが大切です。

初期費用を抑えられたのはやはり大きいなぁ、と数字で見てより実感したゆうこ。
自宅を事務所にできた環境に感謝しつつ、会社を退職するときに表向きは花嫁修業で辞めるといった手前、家事も母に甘えてばかりでなく自分でもやらなくてはなぁと思ったのであった。
            

タクソノミー

第6話 経営計画書

会社を退職した個人事業主として開業をするにいたったプログラマーのゆうこ。資金計画について自分で考えてみたが…

「開業したばかりだけど、その後調子はどう?」
先輩プログラマーの鈴木が、ゆうこの自宅であり事務所としている部屋へやって来た。
以前開業前に鈴木に相談にのってもらったときには鈴木の家にお邪魔したが、今日は鈴木がゆうこの家へとやって来た。今日は旦那が休みで子どもの世話を任せているとのことだった。子持ちの主婦でありながら、在宅プログラマーとしての仕事もしっかりこなしている鈴木の家庭内権力は強い。
「いや~慣れないことばかりですが、なんとかやっているところです」
ちょっとした事務作業一つとっても、慣れない作業を自分で調べながらやっていくのは一苦労であるのを実感していた頃であった。
「まぁ初めはいろいろと大変だと思うけど、何かあったら話ならいつでも聞くから」
そう言ってくれる姉御肌の鈴木に、これからもお世話になります!とゆうこは拝むのであった。

「資金計画表を書いてみたんです」と、表を見せるゆうこ。
書いてみたと言う割には空欄も多く、なんだか頼りなく書かれている表を見せられた鈴木。
「開業自体にはあまり費用はかからなかった。この仕事だし経費の種類も多くはないけど…でもあんた、たとえば通信費とか、今までの生活と同じくらいの金額で計算してるでしょう?通信費は仕事で使う割合を決めて按分しなくちゃいけないけど、今までも使っていた携帯とかプロバイダ利用料の他にも、レンタルサーバー代、ドメイン代とか、クラウドサービスの月額利用料とか、事業用として増える経費もあるでしょう」
「確かに、言われてみればそうですね」
「それに、収入がすぐに安定するわけではないのだから、当面の生活費もきちんと考えておかないといけないよ。収入がすぐに入らなくたって、ちゃんとお金がまわるようにしないとね。自分の保険や年金、住民税だって払っていかないと。生活するだけでお金はかかるのよ~」
開業時を思い出している様子の鈴木。
「貯金を元にやれるかなと割と簡単に考えてましたが、心配になってきました…。これから取りかかる案件も、お金が入ってくるのは少し先なんです…」
はぁ、とため息をつくゆうこ。
「もし金融機関で融資をしてもらったり、第三者のサポートを受けるときには経営計画書が必要になるから、作ってみたら?資金計画表も経営計画書に必要になるから、もうちょっと詰めてみなよ」
「そうですね、やってみます!」
鈴木からアドバイスをもらい、経営計画書を作ってみることにした。

 
経営計画書とは

経営計画書とは、事業内容や目的を第三者に説明するためのものです。独立開業するにあたって必ず考える内容を書面に表したもので、自分の考えを理解してもらうための手段となるものです。
必要資金を調達するために金融機関へ融資を希望する場合にも必要となります。

 

経営計画書の書き方

日本政策金融公庫のホームページからダウンロードできる「創業計画書」を参考に作っていきましょう。

1.創業の動機
なぜ事業を始めようと決意したのか、自分の思いを記載してください。

2.経営者の略歴等
これまでの事業経験を記載します。勤務先だけではなく、具体的な実績や経験を記入し自分の実力を記載しましょう。

3.取扱商品・サービス
販売する商品・サービスを3種類記載します。セールスポイントには、どこが売りで、同業他社との違い、こだわりや強みなど、できるだけ具体的に分かりやすく相手に伝わるよう記載しましょう。

4.取引先・取引関係等
販売先、仕入先、外注先の主な取引先を記載します。そしてその取引先の全体に占める割合と回収支払の条件を記入します。この回収支払の条件は、現金で即金なのか翌月末支払なのかで資金繰りに大きな影響を与える重要な項目です。締日や決済日などをきちんと記入してください。

5.従業員
6.借り入れの状況
現在の状況を記入しましょう。

7.必要な資金と調達方法
8.事業の見通し(月平均)
この表を埋めるのに資金計画表を元に記入します。
事業の見通しには売上を多く見積もったり、経費が過小になっていないか等、自分で立てた計画に異常はないかしっかりと判断しましょう。
予定より売上が見込めないことを想定し、売上は低め、経費は多めで試算しそれでも経営ができるような計画であれば良いでしょう。

タクソノミー

第7話 契約書の作成と注意点

資金計画・経営計画は立てたものの、実際の経営はなかなか順調にはいかず…

開業早々に知人からの紹介で仕事をもらい、納品を終えて請求書を出していたゆうこ。
会社員時代とちがい、毎月決まった収入があるわけではないため、会社を退職してからこれまでの期間、貯金を切り崩して生活していた。
ようやく収入が入るのを楽しみにしていたのだが、なかなか入金がされない。
「請求してから1ヶ月以上経つのに、まだかなぁ」
通帳を見ながら不満を漏らすゆうこ。
「鈴木さんは普段、請求してからどれくらいで入金されているのかな」
ゆうこはフリーランスの先輩プログラマの鈴木に聞いてみることにした。

「請求してからどれくらいで入金が入ってきてるかって?そりゃ契約書で決めた期日で、請求書にも支払期日を書いてるからその日までには入ってきてるわよ。あんた、業務委託を受けるときに契約書作ってなかったの?」
請求書は作ったが、契約書の存在をすっかり忘れていたゆうこ。
「小さい案件だったのですぐに終わるものでしたし、口頭でやりとりしていたので作ってませんでした。請求書も、支払期日は書いてませんでした…」
「トラブルを防ぐためにも、契約書は作っておいた方がいいわよ。金額が大きくなれば特にね。請求書も、問い合わせがあることもあるから、ちゃんと控えを取っておかないとだめよ」
鈴木から契約書についての注意点を教えてもらったゆうこは、次回からは契約時には契約書を出し、請求する時には請求書の内容をしっかり確認して出さなければと反省したのであった。

 

契約書

口約束も契約ですが、「言った、言わない」のトラブルを防ぐためにもしっかり書面に残すことが大事です。
もし裁判で争うことになったとしても契約書が証拠となります。契約書はリスクから、自分を、会社を守るために作成するものなのです。
 

主な契約書の内容(ゆうこの場合)
・目的      内容を具体的に記載する。何をするのか。どこまでやる依頼なのか。
・報酬      金額、支払期日、支払方法など。
・契約期間    いつからいつまでか。中途解除や自動更新の有無など。
・契約解除    契約違反や契約不履行があった場合について。
・権利      成果物(ホームページ)の権利がどちらに帰属するか。
・再委託     第三者に再委託が可能か。
・秘密保持    業務を遂行する上で知り得た情報を第三者に開示しないこと。
・禁止事項    禁止することがある場合。
・契約不適合責任 成果物が契約内容に適合しない場合の責任。報酬の減額、損害賠償、契約解除など。

契約書の作り方を見ると難しく書かれていますが、お互いの合意内容が契約書に書かれていればよいのです。
最初はひな形やサンプルを参考に漏れが無いように作っていきましょう。

 

トラブルを回避するためのポイント

契約書がきちんと効力を持ち、後々問題にならないものにする必要があります。そのための注意点を挙げていきます。

①作成年月日を書く
 契約時に日付はきちんと記入しましょう。

②署名捺印をする
 お互いに住所、氏名(名称)を記入し、きちんと押印しましょう。

③収入印紙を貼る
 収入印紙を貼って無くても契約書自体の効力がなくなる訳ではありませんが、収入印紙を貼るべき契約書(課税文書)に収入印紙を貼っていない場合は、本来納付すべき金額の3倍課せられます。印紙を貼付したら消印をすることも忘れずにしましょう。

④契約書の原本を二通作成する
 原本を一通のみ作成し、一方が原本、他方はコピーということがありますが、契約書のコピーでは証拠能力の点で問題が大きいので、お互いに原本を一通ずつ持った方がよいでしょう。

⑤捨印を押さない
 記載した文章の誤りを訂正するには訂正箇所に双方の印鑑を押します。捨印はこの訂正印をあらかじめ契約書の余白に押しておくことをいいます。
 メリットは誤字や脱字があった場合、訂正印のために双方が集まる必要がありません。ですが、この捨印をすることにより、あとから相手方が合意なく訂正や修正することが可能となってしまいます。重要な部分に勝手に訂正が加えられる可能性もあります。なので極力捨印は押さないようにしましょう。

 
契約書に関する印紙税を忘れない

契約書が「課税文書」に該当する場合、印紙税を納める義務があります。課税文書とは、印紙税法別表第1(課税物件表)に掲げられている文章で、その内容を証明する目的で作成された文書のことです。


個人事業主が取り交わすことになる契約書で、具体的に収入印紙を貼るべき契約書は次のようなものがあります。
第2号文書…請負に関する契約書
請負人がある仕事を完成させることを約束し、注文者が報酬を支払うことについて、契約書を交わしたもの。
(例)工事請負契約書、注文請書、保守契約書など
第2号文書に該当する場合の印紙税の金額は国税庁ホームページに印紙税額一覧表が載っています。

長期間の契約書については、第7号文書に該当する可能性があます。
第7号文書…継続的取引の基本となる契約書(契約期間が3ヶ月以内でかつ更新の定めのないものは除く)
営業者間にて売買、売買の委託、請負などに関する契約で、2以上の取引を継続的に行うことについて、その目的物の種類、取扱数量、単価、対価の支払方法などの事項を定めた契約書。この場合印紙税は一律4千円となります。
(例)売買取引基本契約書、下請基本契約書など

タクソノミー

第8話 雇用について

契約書を作り終え、仕事の依頼も徐々に増えてきて順調なゆうこだったが…

先輩プログラマーの鈴木に色々とアドバイスをもらいながら経営してきたゆうこ。
徐々に仕事も増えてきて忙しい日々のなか、体調を崩してしまう。ある日、鈴木から電話がかかってきた。
「仕事順調らしいけど体調崩したんだって?大丈夫?」
いつも気にかけてくれる優しい鈴木。
「はい、最近仕事の依頼も増えてきて嬉しいですが、休む暇もなく体調を崩してしまいました…」
「あんまり無理しちゃだめだよ。」
「気をつけます…。自分はもう手一杯で人がほしいと思ってきました。」
「人がほしいというのは、誰しもが1人で事業を始めた後に来る悩みよ。もう1人いれば、もっと仕事が受けることができるし売上が増えるかもしれない。でも、人を雇えば売上が少し増えれば良いというわけにはいかないわよ。」
「そうですよね。」
「最低でもその人に支払う給与分は稼いでもらわなければ、自分の手取金が減ってしまう。それに雇うことによって経費も増えるから、実際には給与分じゃ足りないんだけどね。それでも雇いたい?」
「なんだかいろんな出費が増えるんですね…。でも今後のことも考えると雇いたいと思います。」
「雇うと決めたら、人の探し方ね。友人、知人や同業者などでこの人と一緒にやりたいと思う人に声をかけるとか。求人広告出すとかね。」
「なるほど。探してみます。」
「あと雇用することが決まったら、雇用契約書ちゃんと作るのよ。」
「労働契約書?」
「そう。後々のトラブルがないように労働条件のについて合意した内容を書面で残すの。」
「わかりました!いつもありがとうございます。」
「じゃ、がんばって。」
早速ゆうこは人を雇うことについて調べながら準備することにした。

 

雇うことによって増える経費

・給料
・法定福利費(社会保険料や労働保険料)
・福利厚生費
・旅費交通費
・通信費
・水道光熱費など

雇う人の探し方

身近にいる家族、友人、知人、同業者に声をかけてもいいですし、求人広告から採用しても良いです。
様々な求人広告がありますが、一般的に有名なところはハローワークでしょうか。ハローワークは掲載料の費用がかからないため、最初にまず出してみるのも良いと思います。
掲載料を払っても良い場合は、新聞、雑誌やインターネットなどの求人広告があります。職種に特化した求人サイトもあるので、自分が掲載したいところを探して、いくら料金がかかるのか問い合わせてみましょう。

求人広告に掲載する内容

・就業場所
・仕事の内容
・雇用形態 正社員かアルバイトか
・給料の金額、手当、残業代
・月給制、時間給、日給制か
・給料の締日と支払日
・通勤手当の有無と金額
・マイカー通勤の可否
・昇給、賞与の有無
・社会保険、労働保険に加入するか
・退職金制度の有無
・就業時間、休憩時間
・休日
・会社の情報

給与の金額には「最低賃金」というものがあります。
最低賃金とは地域別あるいは産業別に1時間いくらと決められています。この金額以上の給与を支払わなければならないので注意しましょう。最低賃金は、厚生労働省のホームページに掲載されています。毎年10月頃に変わるので、最低賃金より下回らないように気をつけましょう。令和4年10月~東京都の最低賃金は1,072円となっています。

 

雇用する際に作成すべき書類

雇用することが決まれば、まず労働条件について合意した内容を書面で残さなければいけません。個人事業主側が一方的に労働条件を通知する形の「労働条件通知書」または、労働条件を記載した書面に事業主と従業員の双方名前を書いて印鑑を押す「雇用契約書」という形でもかまいません。

労働条件通知書は労働基準法で労働者に労働条件を明示しなければならない義務となっています。また記載すべき事項が定められています。
一方、雇用契約書の作成は義務ではありませんし、法令等で記載事項も定められてはいませんが、労働条件通知書に記載すべき事項をしっかり網羅していれば、同じ扱いになります。

労働条件通知書に記載しなければならない事項
・労働契約期間(期間の定めがある場合は、契約を更新する場合の基準)
・就業場所
・仕事内容
・就業時間及び休憩時間
・所定時間外労働(残業)の有無
・休日、休暇
・賃金の決定、計算及び支払方法、締日、支払日
・退職に関すること(解雇の事由、定年年齢など)
・昇給に関すること
その他、退職金・賞与や休暇、社会保険加入などに関して定めた場合はそれも記載しましょう。

 

就業規則はつくるべきなのか?

就業規則とは、労働条件について定めた規則やその職場で働くにあたって守らなければならないルールをまとめたものです。職場でのルールを明確にすることで労使間のトラブルを避けられる効果があります。
労働基準法において、「常時10人以上の労働者」を使用する使用者は就業規則を作成し、これを労働基準監督署に届出ることが義務づけられています。
「常時10人以上の労働者」の中には、正社員だけでなくパート・アルバイトの人数も含まれます。労働者が10人以上になったら、就業規則を作成する義務が出てきます。
それまでは義務としてはありませんので、必ず労働条件通知書か雇用契約書を作成して、労働条件を明らかにしておきましょう。

 

税務関係の手続き

1.給与支払事務所等の開設届出書

従業員を1人でも雇用したら所轄の税務署に提出しなければならない書類が「給与支払事務所等の開設届出書」です。
これは給与支払事務所を開設した日から1か月以内に所轄税務署に提出することになっています。提出すると税務署から源泉所得税の納付書の綴りが送られてきます。
従業員に給与を支払う際、その給与に対して源泉所得税という税金が発生します。事業主は従業員の給与から源泉所得税を預かり、事業主が納付します。

源泉所得税の納付には期限があり、預かった税金を翌月10日までに納めなければなりません。たとえば、4月30日に1回目の給与を支払った場合、預かった源泉所得税を翌月10日である5月10日までに金融機関で納めなければならないということになります。
この納付期限に遅れた場合には、不納付加算税という罰金のような税金が、源泉所得税に対して5%(税務調査などで不納付が発覚した場合は10%)課せられてしまいます。

 

2.源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書

源泉所得税は毎月納付すると述べましたが、毎月納付するのは面倒だと感じると思います。この納期の特例の申請書を提出すると1月~6月分を7月10日まで、7月~12月分を翌年1月20日までに納付することになります。毎月納付を6か月に1回、年2回の納付に減らすことができる申請書です。
メリットはこの適用を受ければ納付する手間が減ります。デメリットは年2回にした場合、6ヶ月間に給与から預かった源泉所得税をまとめて納付するため、一度の支払負担が大きくなります。一度にお金が出てしまうことが資金繰りの観点から厳しく感じることもあります。

先ほどの「給与支払事務所等の開設届出書」を提出すると同時に毎月税金を納めるのがよいか、年2回で納めるのがよいかを検討して下さい。
また、この適用を受けることができるのは、給与の支払を受ける者が常時10人未満に限ります。10人以上になったら毎月納付になります。

タクソノミー

第9話 年末調整について

仕事が増え1人では大変になり従業員を雇うことに決めたゆうこ。年末も迫ってきたある日の先輩プログラマー鈴木との会話。

 

「もう年末だね。1年があっという間だったわ。」
「そうですね。今年も色々ありました。初めて従業員を雇ったのは大きな出来事ですね。」
しみじみ話すゆうこ。
「従業員を雇ったなら今年初めての年末調整だね。もう準備は進めているの?」
「あ…すっかり忘れていました。なにも準備していません。どうすればいいかもわかっていません。」
慌てるゆうこ。
「初めてだと時間がかかると思うから早めに準備しなさいよ。まずは従業員の方に年末調整の用紙を配布して記入してもらいなさい。国税庁のHPからダウンロードできるよ。基本12月支給給与のときに年末調整をするから、早めに用紙を渡して記入してもらった方がいいよ。それをもとに年末調整するからね。」
「会社に勤めていたとき書いていた書類ですね。」
「そうよ。保険料控除とかは証明書の添付が必要だからね。あと忘れてしまいがちだけど、年の途中で入社したら前職の源泉徴収票も必要よ。これで正しい所得税の金額を計算して、今まで天引きしてきた源泉所得税との差額を調整するのよ。それで還付か納付するのかが決まるの。」
「今まで何も考えず書類を書いて、還付されたラッキーって思ってました。ちゃんと計算されて還付されたということなんですね。」

先輩プログラマー鈴木から年末調整について教えてもらったゆうこ。頼りになる鈴木に感謝しながら、早速年末調整の準備をすることにした。

 

年末調整とは

1月から12月までに預かってきた源泉所得税の合計と、1年間の給与から所得税を計算した年税額の差額を精算することを年末調整といいます。
個人事業主は、確定申告によって所得税の計算を行うので年末調整の必要はありません。これに対し、1年間の収入が会社又は個人事業主からの給与のみの従業員の場合は、年末調整を行う必要があります。
従業員に給与を支払う時に、源泉所得税を毎月天引きしていると思いますが、この源泉所得税の金額は仮の金額です。
12月支給の給与で年末調整で計算した正しい所得税の年税額より、1年間預かった所得税の金額が少なければ、差額を納めます。逆に預かった所得税の金額の方が多ければ、差額を還付することになります。

①給与所得者の扶養控除等(異動)申告書

従業員すべてに対してこの年末調整をするわけではありません。年末調整の対象とならない人もいますが、原則として「給与所得者の扶養控除等申告書」を事業主に提出している人は年末調整を行います。年末調整の対象とならない人とは、2か所以上から給与を受けている人で、もう一方の会社に扶養控除等申告書を提出している場合などです。
この扶養控除等申告書は毎年必要となるので、毎年従業員に書いてもらわなければなりません。

書いてもらう内容
・氏名
・生年月日
・住所
・マイナンバー
・配偶者の有無
その他該当するものがあれば、配偶者や扶養親族などの情報も記入してもらいます。

②給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書

2枚目は3つの控除が1枚になっているため、とても名前が長いです。
基礎控除申告書の欄は給与所得から所得金額を計算しましょう。
あと2つの配偶者控除と所得金額調整控除は該当する方のみ記入しましょう。

③給与所得者の保険料控除申告書

3枚目のこの用紙は、記入することによって保険料控除が受けられます。具体的には、生命保険料控除、地震保険料控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除です。
生命保険料控除と地震保険料控除は毎年10月ぐらいに各生命保険会社や損害保険会社から郵送されてくる控除証明書を見ながらそのまま記載されていることを記入します。
社会保険料控除には、給料から天引きされている社会保険料については記入しません。
給料から天引きされていない、自分自身で納付した国民健康保険料や国民年金の金額などを記入します。

所得控除に必要な証明書は添付して下さい。(国民健康保険については証明書は不要となっています。)
証明書が添付されていない場合は、控除できないので気をつけましょう。

書いてもらう内容
・氏名
・住所
・控除があれば該当するところに記入(控除証明書を添付)


また年の途中で入社した従業員で前職がある方は、前職の源泉徴収票を添付して下さい。
住宅ローン控除を受ける方は1年目は確定申告が必要ですが、2年目からは年末調整で控除するので、税務署が発行した「住宅借入金等特別控除証明書」と金融機関が発行した「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」を添付しましょう。

書いてもらった3枚の申告書と添付書類は、税務署には提出せずに個人事業主自身が保存します。
 

年末調整の電子化

令和2年10月以後に電子データで年末調整の書類を提出することが可能となりました。
国税庁が無料で提供している「年調ソフト」を使います。パソコンやスマートフォンから年調ソフトをダウンロードし、今まで用紙に記入していた内容を電子データで作成し事業主に提出します。事業主は電子データを給与システムにインポートして年税額を計算します。

保険料控除証明書も保険会社から電子データで受け取ることができます。
今まで手計算していた控除額は自動計算されます。電子データの控除証明書は年調ソフトにインポートして終わりなので、提出後に事業主がチェックする必要がありません。紙で保管する必要がないので保管コストの削減になります。特に従業員が多い会社は年末調整が大変だと思います。電子化を検討してみましょう。
 

給与支払い報告書の市区町村への提出

従業員の年末調整が終わったら、源泉徴収票を作成します。源泉徴収票の用紙には、従業員の住所、氏名、給与の金額、所得控除の金額、源泉徴収税額、そして、所得控除内容、中途入社日または途中退職日、生年月日、支払い者である個人事業主の住所、氏名、電話番号を記入します。
この源泉徴収票の用紙は4枚綴りになっており、これらの名称は下記の通りです。
1~2枚目
給与支払報告書(市区町村提出用)
3枚目
源泉徴収票(税務署提出用)
4枚目
源泉徴収票(本人交付用)

1~2枚目の給与支払報告書は給与支払報告書(総括表)という表紙をつけて従業員の住んでいる市区町村に提出します。
この給与支払報告書を提出することで来年の住民税が決まります。
3枚目の源泉徴収票は、「税務署提出用」とありますが、すべての源泉徴収票を提出する必要はありません。年末調整をしたものは年間の給与が500万円を超える人が提出する義務が生じます。該当する人がいれば、「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」という書類と一緒に提出します。
そして4枚目は本人に渡しましょう。
市区町村提出用も、税務署提出用も提出期限は翌年1月31日です。

タクソノミー

第10話 事務所借りる

個人事業主のゆうこは、周囲の人に相談しつつ年末調整も終わり、そろそろ事務所を借りる?

久しぶりの休日、気温も暖かくなり散歩をしていたゆうこ。
不動産屋の前を通り、そういえば自宅を職場にしていたけど、事務所を借りるのもいいな~と思った。
行動力があるゆうこは、すぐ不動産屋に入った。
店員「いらっしゃいませ。本日は、どのような物件をお探しですか?」
思いつきで行動したため、ゆうこはしどろもどろ。
「えっと、ちょっと、あのー事務所を借りたいと思いまして。」
店員「事務所用の賃貸ですね。業種、従業員さんは何人でしょうか?それと、場所はどこがいいとか、家賃はどのくらいなど希望はありますか?」
質問攻めで困るゆうこ
「えっと、特に考えず来てしまったんですが....」
店員「事務所だとおすすめは○○駅、××駅とかの周辺はいかがでしょう?ここら辺の賃料の相場は○○万円ぐらいで、、、」
店員さんが親切に説明をしてくれたが、何も考えていなかったため、全く頭に入らなかった。取りあえず考えます。と伝え不動産屋を出た。店員さんが教えてくれた物件資料など参考にし、物件探しを始めた。

 

1.自宅を職場にするメリット、デメリット
メリットは家賃、水道光熱費、事務所までの交通費の経費を抑えられることです。
デメリットは、事業用のスペースが狭い、仕事モードにならない、集中しにくい、来客を招きにくい、自宅の住所を知られてしまうなど。

 

2.地域、物件を選ぶときのポイント
まず事務所を構えたい地域や立地を考えましょう。業種や業態、ターゲット顧客の状況、競合他社、交通の便、家賃など総合的に勘案し決定しましょう。
譲れないポイントやこれは妥協してもいいなど優先順位を考えて不動産屋に伝えると良いでしょう。

 

3.なぜこの物件は空いたのか
前のテナントが利便性が良かったなら、退去するはずがありません。街中で見かける、数年でコロコロお店が変わるような所かもしれません。何か理由があるかもしれないので不動産業者や近隣住民に、どうして上手くいかなかった聞いてみてください。何か原因があるならその原因が自分なら克服できるか考えてみて下さい。

 

4.契約書の内容を確認
物件が決まれば契約書です。しっかりと内容を確認しましょう。

契約形態の確認
普通借家契約と定期借家契約があります。普通借家契約は契約期間満了しても、借主が更新を望むと更新されます。定期借家契約には更新がありません。契約期間が満了したら物件を明け渡さないといけません。ですが、貸主との合意がとれれば再契約することは可能です。また基本的に契約期間内の途中解約はできません。

契約期間、更新の定め
次に契約期間を確認します。契約の更新手続きや更新料の有無などの確認しましょう。

賃料や管理費、共益費
賃料や管理費の額と支払方法、支払期日を確認します。
多くの場合、振込や自動引落で、翌月分を前月末日までに払うことになっています。
また、滞納時に延滞金が必要な場合は延滞利率についても確認しておきましょう。

使用目的
使用目的が限定されている物件もあります。居住用しか認められていない物件、また業種が限定されている場合もあります。
必ずチェックしておきましょう。

敷金(保証金)
敷金とは家賃を滞納してしまった時や故意または過失による建物の破損した時の修繕費を充当するために貸主に預けているお金です。退去時に敷金と原状回復費用との精算をして返還されます。また償却がある場合は、退去時に敷金から無条件に差し引かれます。償却額より原状回復費用が少なくてもその分の敷金は返還されません。トラブルが多いので、原状回復に関する取り決めも含めしっかりと確認しましょう。

修繕
入居中の物件の修繕に関する取り決めです。一般的には、通常の物件の使用に必要な修繕は貸主が行うこととなっています。
借主が故意または過失によって必要になった修繕は借主が行います。このような取り決めが不明確だとトラブルとなることもありますので注意しましょう。

禁止事項
ペット飼育、楽器演奏、共用部分に物品を置く、又貸しなど契約によって異なりますので確認しましょう。

契約解除
貸主からの契約解除の要件が取り決められています。賃料を2ヶ月分以上の遅滞、禁止事項の違反などが挙げられます。

確認すべき事項はこれだけではありませんので、一通り契約書を読み、疑問点や不明点は自分が納得できるまで確認することが大切です。

タクソノミー

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