受験資格の緩和による税理士試験の概観
令和2年(第70回)から令和6年(第74回)に至る税理士試験の推移を振り返ると、受験者数や合格率、受験生属性の変化が相互に影響し合いながら、大きく様変わりしていることがうかがえます。令和2年から令和4年までは合格率が概ね15~19%台で安定的に推移していましたが、令和5年に全体合格率が21.7%と高水準に達し、翌令和6年には16.6%まで急低下するという短期的な変動が顕著です。科目別では、令和5年に財務諸表論の合格率が約28%と極端に高かったのに対し、令和6年には8%まで落ち込むなど、年度間での難易度調整や出題傾向の違いが合格率に大きく影響しているようです。
一方、受験資格の緩和による大学生(「大学在学中」区分)の増加は、ここ数年の最も大きなトピックといえます。従来は一定の履修科目・単位が必要だったため、在学中の受験は少数派でした。しかし、令和5年以降においては「大学在学中」受験者が2,000名を超え、令和6年には2,461名まで増加するなど、若年層が早期から科目合格を積み重ねられる環境が整いつつあります。合格率の面でも、令和5年には30%超、令和6年はやや下がったものの26%台と、依然として全体平均を大きく上回る数値を保っており、若手の参入が業界に与える影響は無視できないレベルに達しています。
こうした若手の増加は、税理士業界にいくつかのポジティブなインパクトをもたらすと考えられます。まず、人材不足や高齢化が指摘されてきた業界において、新卒や20代前半の人材が増えることで組織の新陳代謝が進み、業務効率化やITリテラシーの向上が期待できます。次に、在学中に簿記論・財務諸表論などの会計系科目を合格してしまうことで、就職後の負担が軽減され、早い段階で法人税法や相続税法といった難関科目の学習に集中できるなど、合格までの道のりがより短期化しやすくなる点も挙げられます。平均10年程度かかるといわれていた5科目合格のスパンが短くなることで、モチベーション維持も容易になり、最終的に業界に定着する人材が増える可能性が高まるでしょう。
さらに、若手が持つITやクラウド会計ソフトへの親和性は、従来の記帳代行・申告書作成といった“労働集約型”の業務だけでなく、コンサルティングや経営支援など“付加価値の高い業務領域”への進出を後押しする契機にもなります。大学生のうちに会計知識を固めつつ、他分野(情報システムや国際ビジネス、マーケティングなど)との学際的な視点を得られるため、卒業後のキャリアパスも柔軟化するでしょう。結果として、業界内に新しいサービスやビジネスモデルが生まれ、税理士という資格の魅力やブランド力の向上にも寄与することが期待されます。
とはいえ、年度ごとの合格率変動が大きいことや、ベテラン層が合格に苦戦していることなど、課題も残ります。年齢・学歴などの属性によって合否の格差が広がり、税理士試験が“若い人ほど有利”という構図になる可能性も指摘されます。とはいえ、資格緩和による若手参入そのものは、長期的にみれば人材不足の解消や業界の活性化に大きく寄与すると見込まれ、業務領域の拡大やデジタル化とあいまって税理士業界全体の構造変革を後押ししていくものと考えられます。
総じて、令和2年以降の税理士試験は、短期間で合格率が大きく変動する特徴を見せながらも、大学生の早期参入とそれに伴う若年層比率の上昇が非常に大きなインパクトを与えています。今後は試験制度の継続的な見直し、大学教育との連携、そして業界側の受け皿整備などが進めば、より多くの受験生が在学中に科目合格を重ね、早期に税理士資格を取得する姿が一般化する可能性が高いでしょう。その結果として、これまで“資格取得に長い年月が必要”とされてきた税理士試験の常識が変わり、若手が中心となる新時代の税理士像が形成されていくことが期待されます。