国税庁の相続税の事績、調査の状況から読み取れ!
国税庁が公表した「相続税申告の状況について(令和5年事務年度分)」および「相続税調査の状況について(令和5年事務年度分)」という2つのデータから、納税者が相続において、どのようなトラブルや追加負担が防げるかについて説明します。
1. 相続税申告件数や課税件数の傾向から学ぶこと
公表データからは、毎年死亡者のうち約10%の死亡者の遺産が相続税の申告の対象となっています。平成27年の相続税の基礎控除の引き上げによりそれまでの相続税の申告割りありが4.4%から8%に、その後現在の9.9%に増え続きています。
そして、令和5年事務年度の相続税の税収は約3兆円となり、改正以前の1.4兆円から大幅に増えています。
早めの情報収集と試算
相続発生前から大まかな遺産総額や借入金などを整理し、相続税が発生しそうか、申告対象になりそうかを見極めることが重要です。事前におおよその資産評価を行うことで、相続税申告の必要性や、どの程度の税負担が見込まれるかを把握できます。
基礎控除と課税ラインの理解
相続税には基礎控除がありますが、最近の地価上昇や金融資産増大などにより、控除を上回り課税対象となるケースも少なくありません。基礎控除額や法定相続人の数、課税対象となる財産の範囲を正確に理解し、自身が該当するかどうかを把握することが大切です。
2. 相続税調査の状況から見える注意点
相続税調査データでは、1年間で実地調査を8,500件、簡易な接触を18,000件を処理をし、そのうち実地調査では84.2%、簡易な接触では27%の誤りや不正申告を見つけ出しています。約155,000件の約5.5%の実地調査、11.6%の簡易な接触をして居ることになります。これらの数値から、多いとか、少ないとかの判断はそれぞれにお任せするとして、いずれにせよ申告漏れが発生し加算税や重加算税が課税されていることには変わりありません。
このようなトラブルに巻き込まれないように、以下のことに気をつけるべきです。
財産目録の正確な作成:
相続財産には、現金・預貯金・有価証券・不動産のみならず、死亡退職金、生命保険金、海外資産、美術品・骨董品といった動産、さらには相続時に慌ただしく見落としがちな財産まで含まれます。すべての対象財産を正確に洗い出し、申告漏れを防ぐためには、故人が生前に資産リストを整備しておくことや、相続人自身が複数の金融機関や証券会社、保険会社へ照会して正確な情報を得ることが求められます。
適正な財産評価と専門家活用:
調査結果からは、不動産評価の誤りや、株式等の評価が適正でない事例が散見されることが推測されます。不動産は路線価評価が基本ですが、特殊な地形や権利関係による減額要因、また非上場株式の評価は複雑な計算を要します。こうした評価ミスが後から判明すると追徴税が発生し、余計な負担となります。財産評価に不安がある場合、税理士や不動産鑑定士などの専門家に早めに相談し、評価の正確性を高めることが重要です。
海外資産や特殊財産の申告漏れ防止:
国際化に伴い、海外口座や海外不動産などを所有する人も増えていますが、海外資産も相続税の対象です。税務当局は近年、各国間の情報交換協定強化や金融情報共有を通じて海外資産の捕捉力を高めています。海外資産をうっかり申告漏れすることはリスクが大きく、後に調査で発覚すると多額の追徴税やペナルティを科される可能性があります。海外資産がある場合は、専門家や金融機関と相談し、透明性を確保することが肝要です。
3. 前年度比較や長期傾向から読み取れる注意点
相続税制改正への備え:
過去に相続税の基礎控除が引き下げられた際、多くの人が急に課税対象となりました。今後も税制改正や、不動産や株式市場動向、金融資産の評価ルール変更などが起こり得ます。こうした社会・制度変化に柔軟に対応するため、定期的に財産状況を見直し、相続税計算のシミュレーションを行いましょう。
早期の相続対策(生前贈与や信託など)の検討:
相続時点で慌てて対策をしても効果は限定的です。生前贈与や住宅取得資金贈与、生命保険の活用、遺言信託の設定など、長期的な視点で課税額を抑える方法は多様です。最新の調査傾向を踏まえ、税務当局が関心を強めている分野(例えば海外資産、未申告財産、複雑な財産評価スキームなど)を把握し、それらを正しく処理するための対策を時間をかけて検討することが得策です。
4. コンプライアンス意識と信頼関係の構築
調査結果からは、意図的な不正申告だけでなく、知識不足や手続きの不慣れによるミスも少なくないことが窺えます。
正確な申告とコンプライアンス重視:
相続税に対して誠実に向き合い、適正かつ正確な申告を行うことで、後日の調査で追加課税やトラブルを回避できます。特に相続税は、相続人間の関係性や相続財産の分配にも影響するため、公正な手続きと透明性は、親族間の紛争防止にも寄与します。
専門家との連携:
税理士などの専門家は、単なる計算業務以上の役割を果たし得ます。相続人間の合意形成、財産評価の見直し、書類整備、法的手続きなどのトータルサポートによって、申告の正確性や円滑化を図ることができます。その結果、税務当局との無用な対立を避け、将来的なリスクを大幅に低減することが可能です。
まとめ
一般の納税者にとって重要なのは、日頃から正確な資産把握と評価方法を理解し、必要に応じて専門家を活用することです。また、法改正や市場動向に常にアンテナを張り、必要ならば生前贈与や信託などの相続対策を講じることで、調査リスクや将来のトラブルを最小限に抑えることができます。コンプライアンス意識を高め、透明性・適正性を重視した相続準備を行うことで、スムーズかつ公平な相続手続きと、不要な税務上のリスク回避が期待できます。