第9話 年末調整について
仕事が増え1人では大変になり従業員を雇うことに決めたゆうこ。年末も迫ってきたある日の先輩プログラマー鈴木との会話。
「もう年末だね。1年があっという間だったわ。」
「そうですね。今年も色々ありました。初めて従業員を雇ったのは大きな出来事ですね。」
しみじみ話すゆうこ。
「従業員を雇ったなら今年初めての年末調整だね。もう準備は進めているの?」
「あ…すっかり忘れていました。なにも準備していません。どうすればいいかもわかっていません。」
慌てるゆうこ。
「初めてだと時間がかかると思うから早めに準備しなさいよ。まずは従業員の方に年末調整の用紙を配布して記入してもらいなさい。国税庁のHPからダウンロードできるよ。基本12月支給給与のときに年末調整をするから、早めに用紙を渡して記入してもらった方がいいよ。それをもとに年末調整するからね。」
「会社に勤めていたとき書いていた書類ですね。」
「そうよ。保険料控除とかは証明書の添付が必要だからね。あと忘れてしまいがちだけど、年の途中で入社したら前職の源泉徴収票も必要よ。これで正しい所得税の金額を計算して、今まで天引きしてきた源泉所得税との差額を調整するのよ。それで還付か納付するのかが決まるの。」
「今まで何も考えず書類を書いて、還付されたラッキーって思ってました。ちゃんと計算されて還付されたということなんですね。」
先輩プログラマー鈴木から年末調整について教えてもらったゆうこ。頼りになる鈴木に感謝しながら、早速年末調整の準備をすることにした。
年末調整とは
1月から12月までに預かってきた源泉所得税の合計と、1年間の給与から所得税を計算した年税額の差額を精算することを年末調整といいます。
個人事業主は、確定申告によって所得税の計算を行うので年末調整の必要はありません。これに対し、1年間の収入が会社又は個人事業主からの給与のみの従業員の場合は、年末調整を行う必要があります。
従業員に給与を支払う時に、源泉所得税を毎月天引きしていると思いますが、この源泉所得税の金額は仮の金額です。
12月支給の給与で年末調整で計算した正しい所得税の年税額より、1年間預かった所得税の金額が少なければ、差額を納めます。逆に預かった所得税の金額の方が多ければ、差額を還付することになります。
①給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
従業員すべてに対してこの年末調整をするわけではありません。年末調整の対象とならない人もいますが、原則として「給与所得者の扶養控除等申告書」を事業主に提出している人は年末調整を行います。年末調整の対象とならない人とは、2か所以上から給与を受けている人で、もう一方の会社に扶養控除等申告書を提出している場合などです。
この扶養控除等申告書は毎年必要となるので、毎年従業員に書いてもらわなければなりません。
書いてもらう内容
・氏名
・生年月日
・住所
・マイナンバー
・配偶者の有無
その他該当するものがあれば、配偶者や扶養親族などの情報も記入してもらいます。
②給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
2枚目は3つの控除が1枚になっているため、とても名前が長いです。
基礎控除申告書の欄は給与所得から所得金額を計算しましょう。
あと2つの配偶者控除と所得金額調整控除は該当する方のみ記入しましょう。
③給与所得者の保険料控除申告書
3枚目のこの用紙は、記入することによって保険料控除が受けられます。具体的には、生命保険料控除、地震保険料控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除です。
生命保険料控除と地震保険料控除は毎年10月ぐらいに各生命保険会社や損害保険会社から郵送されてくる控除証明書を見ながらそのまま記載されていることを記入します。
社会保険料控除には、給料から天引きされている社会保険料については記入しません。
給料から天引きされていない、自分自身で納付した国民健康保険料や国民年金の金額などを記入します。
所得控除に必要な証明書は添付して下さい。(国民健康保険については証明書は不要となっています。)
証明書が添付されていない場合は、控除できないので気をつけましょう。
書いてもらう内容
・氏名
・住所
・控除があれば該当するところに記入(控除証明書を添付)
また年の途中で入社した従業員で前職がある方は、前職の源泉徴収票を添付して下さい。
住宅ローン控除を受ける方は1年目は確定申告が必要ですが、2年目からは年末調整で控除するので、税務署が発行した「住宅借入金等特別控除証明書」と金融機関が発行した「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」を添付しましょう。
書いてもらった3枚の申告書と添付書類は、税務署には提出せずに個人事業主自身が保存します。
年末調整の電子化
令和2年10月以後に電子データで年末調整の書類を提出することが可能となりました。
国税庁が無料で提供している「年調ソフト」を使います。パソコンやスマートフォンから年調ソフトをダウンロードし、今まで用紙に記入していた内容を電子データで作成し事業主に提出します。事業主は電子データを給与システムにインポートして年税額を計算します。
保険料控除証明書も保険会社から電子データで受け取ることができます。
今まで手計算していた控除額は自動計算されます。電子データの控除証明書は年調ソフトにインポートして終わりなので、提出後に事業主がチェックする必要がありません。紙で保管する必要がないので保管コストの削減になります。特に従業員が多い会社は年末調整が大変だと思います。電子化を検討してみましょう。
給与支払い報告書の市区町村への提出
従業員の年末調整が終わったら、源泉徴収票を作成します。源泉徴収票の用紙には、従業員の住所、氏名、給与の金額、所得控除の金額、源泉徴収税額、そして、所得控除内容、中途入社日または途中退職日、生年月日、支払い者である個人事業主の住所、氏名、電話番号を記入します。
この源泉徴収票の用紙は4枚綴りになっており、これらの名称は下記の通りです。
1~2枚目
給与支払報告書(市区町村提出用)
3枚目
源泉徴収票(税務署提出用)
4枚目
源泉徴収票(本人交付用)
1~2枚目の給与支払報告書は給与支払報告書(総括表)という表紙をつけて従業員の住んでいる市区町村に提出します。
この給与支払報告書を提出することで来年の住民税が決まります。
3枚目の源泉徴収票は、「税務署提出用」とありますが、すべての源泉徴収票を提出する必要はありません。年末調整をしたものは年間の給与が500万円を超える人が提出する義務が生じます。該当する人がいれば、「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」という書類と一緒に提出します。
そして4枚目は本人に渡しましょう。
市区町村提出用も、税務署提出用も提出期限は翌年1月31日です。