第8話 雇用について
契約書を作り終え、仕事の依頼も徐々に増えてきて順調なゆうこだったが…
先輩プログラマーの鈴木に色々とアドバイスをもらいながら経営してきたゆうこ。
徐々に仕事も増えてきて忙しい日々のなか、体調を崩してしまう。ある日、鈴木から電話がかかってきた。
「仕事順調らしいけど体調崩したんだって?大丈夫?」
いつも気にかけてくれる優しい鈴木。
「はい、最近仕事の依頼も増えてきて嬉しいですが、休む暇もなく体調を崩してしまいました…」
「あんまり無理しちゃだめだよ。」
「気をつけます…。自分はもう手一杯で人がほしいと思ってきました。」
「人がほしいというのは、誰しもが1人で事業を始めた後に来る悩みよ。もう1人いれば、もっと仕事が受けることができるし売上が増えるかもしれない。でも、人を雇えば売上が少し増えれば良いというわけにはいかないわよ。」
「そうですよね。」
「最低でもその人に支払う給与分は稼いでもらわなければ、自分の手取金が減ってしまう。それに雇うことによって経費も増えるから、実際には給与分じゃ足りないんだけどね。それでも雇いたい?」
「なんだかいろんな出費が増えるんですね…。でも今後のことも考えると雇いたいと思います。」
「雇うと決めたら、人の探し方ね。友人、知人や同業者などでこの人と一緒にやりたいと思う人に声をかけるとか。求人広告出すとかね。」
「なるほど。探してみます。」
「あと雇用することが決まったら、雇用契約書ちゃんと作るのよ。」
「労働契約書?」
「そう。後々のトラブルがないように労働条件のについて合意した内容を書面で残すの。」
「わかりました!いつもありがとうございます。」
「じゃ、がんばって。」
早速ゆうこは人を雇うことについて調べながら準備することにした。
雇うことによって増える経費
・給料
・法定福利費(社会保険料や労働保険料)
・福利厚生費
・旅費交通費
・通信費
・水道光熱費など
雇う人の探し方
身近にいる家族、友人、知人、同業者に声をかけてもいいですし、求人広告から採用しても良いです。
様々な求人広告がありますが、一般的に有名なところはハローワークでしょうか。ハローワークは掲載料の費用がかからないため、最初にまず出してみるのも良いと思います。
掲載料を払っても良い場合は、新聞、雑誌やインターネットなどの求人広告があります。職種に特化した求人サイトもあるので、自分が掲載したいところを探して、いくら料金がかかるのか問い合わせてみましょう。
求人広告に掲載する内容
・就業場所
・仕事の内容
・雇用形態 正社員かアルバイトか
・給料の金額、手当、残業代
・月給制、時間給、日給制か
・給料の締日と支払日
・通勤手当の有無と金額
・マイカー通勤の可否
・昇給、賞与の有無
・社会保険、労働保険に加入するか
・退職金制度の有無
・就業時間、休憩時間
・休日
・会社の情報
給与の金額には「最低賃金」というものがあります。
最低賃金とは地域別あるいは産業別に1時間いくらと決められています。この金額以上の給与を支払わなければならないので注意しましょう。最低賃金は、厚生労働省のホームページに掲載されています。毎年10月頃に変わるので、最低賃金より下回らないように気をつけましょう。令和4年10月~東京都の最低賃金は1,072円となっています。
雇用する際に作成すべき書類
雇用することが決まれば、まず労働条件について合意した内容を書面で残さなければいけません。個人事業主側が一方的に労働条件を通知する形の「労働条件通知書」または、労働条件を記載した書面に事業主と従業員の双方名前を書いて印鑑を押す「雇用契約書」という形でもかまいません。
労働条件通知書は労働基準法で労働者に労働条件を明示しなければならない義務となっています。また記載すべき事項が定められています。
一方、雇用契約書の作成は義務ではありませんし、法令等で記載事項も定められてはいませんが、労働条件通知書に記載すべき事項をしっかり網羅していれば、同じ扱いになります。
労働条件通知書に記載しなければならない事項
・労働契約期間(期間の定めがある場合は、契約を更新する場合の基準)
・就業場所
・仕事内容
・就業時間及び休憩時間
・所定時間外労働(残業)の有無
・休日、休暇
・賃金の決定、計算及び支払方法、締日、支払日
・退職に関すること(解雇の事由、定年年齢など)
・昇給に関すること
その他、退職金・賞与や休暇、社会保険加入などに関して定めた場合はそれも記載しましょう。
就業規則はつくるべきなのか?
就業規則とは、労働条件について定めた規則やその職場で働くにあたって守らなければならないルールをまとめたものです。職場でのルールを明確にすることで労使間のトラブルを避けられる効果があります。
労働基準法において、「常時10人以上の労働者」を使用する使用者は就業規則を作成し、これを労働基準監督署に届出ることが義務づけられています。
「常時10人以上の労働者」の中には、正社員だけでなくパート・アルバイトの人数も含まれます。労働者が10人以上になったら、就業規則を作成する義務が出てきます。
それまでは義務としてはありませんので、必ず労働条件通知書か雇用契約書を作成して、労働条件を明らかにしておきましょう。
税務関係の手続き
1.給与支払事務所等の開設届出書
従業員を1人でも雇用したら所轄の税務署に提出しなければならない書類が「給与支払事務所等の開設届出書」です。
これは給与支払事務所を開設した日から1か月以内に所轄税務署に提出することになっています。提出すると税務署から源泉所得税の納付書の綴りが送られてきます。
従業員に給与を支払う際、その給与に対して源泉所得税という税金が発生します。事業主は従業員の給与から源泉所得税を預かり、事業主が納付します。
源泉所得税の納付には期限があり、預かった税金を翌月10日までに納めなければなりません。たとえば、4月30日に1回目の給与を支払った場合、預かった源泉所得税を翌月10日である5月10日までに金融機関で納めなければならないということになります。
この納付期限に遅れた場合には、不納付加算税という罰金のような税金が、源泉所得税に対して5%(税務調査などで不納付が発覚した場合は10%)課せられてしまいます。
2.源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
源泉所得税は毎月納付すると述べましたが、毎月納付するのは面倒だと感じると思います。この納期の特例の申請書を提出すると1月~6月分を7月10日まで、7月~12月分を翌年1月20日までに納付することになります。毎月納付を6か月に1回、年2回の納付に減らすことができる申請書です。
メリットはこの適用を受ければ納付する手間が減ります。デメリットは年2回にした場合、6ヶ月間に給与から預かった源泉所得税をまとめて納付するため、一度の支払負担が大きくなります。一度にお金が出てしまうことが資金繰りの観点から厳しく感じることもあります。
先ほどの「給与支払事務所等の開設届出書」を提出すると同時に毎月税金を納めるのがよいか、年2回で納めるのがよいかを検討して下さい。
また、この適用を受けることができるのは、給与の支払を受ける者が常時10人未満に限ります。10人以上になったら毎月納付になります。