第4話 開業時に提出する書類・青色申告について
開業準備を始めていたゆうこ。フリーランスの先輩でもある元上司の鈴木を始め、同業者や他業種でも独立して仕事をしている知人をあたり、開業後の仕事の流れや経験談など、いろいろな話を聞いてまわっていた。
ゆうこは一見しっかりしているようで、実際はお調子者な面もあり、昔からどこか危なっかしいところがあった。愛想はあるので、周囲の人間はついつい世話を焼いてしまう。今回も急に独立すると言い出したので、周囲は大丈夫なのかとあれこれ心配をしているのであった。こういった世話焼きな知人・友人のおかげで今日のゆうこがいると言える。
開業後の仕事のことで頭をいっぱいにするゆうこであったが、肝心の「開業」をまだしていない。
鈴木に紹介してもらった税理士の藁を訪ね、開業にあたっての相談を聞いてもらい、開業の手続きを教えてもらうのであった。
【個人事業の開業・廃業等届出書】
開業する個人事業主は、「個人事業の開業・廃業等届出書」を税務署に提出します。
提出期限は、開業の日から1か月以内です。提出期限が土日・祝日に当たる場合は翌日が期限となります。
提出先については、まず「納税地」をどこにするかで決まります。ゆうこの場合、自宅を事務所にするので納税地は自宅になります。多くの個人事業主も自宅を納税地としていますが、事務所・店舗の所在地を納税地とすることも可能です。
届出書が完成したら控え用としてコピーをしましょう。提出と同時にその控えに受付印を押してもらいます。この控えは金融機関などで必要になる場合があります。
届出書の提出は、税務署に持参するか、郵便でも提出することができます。郵送で提出する場合は、控えを返送してもらうため切手を貼った返信用封筒を同封するのを忘れないでください。
「開業届を提出すると同時に検討したいことなんですが、所得税の申告方法を青色申告にするか、白色申告にするか、どうしましょうか」
藁から質問されるが、ゆうこはまずそれぞれの意味が分からない。それをすぐに察知した藁は、質問に続けて説明を始めた。
【青色申告と白色申告】
確定申告には青色申告と白色申告の2つの申告方法があります。青色申告の場合、事前に申請書の提出と複式簿記による帳簿の作成が必要になります。白色申告は複式簿記の帳簿が必要ないため青色より簡単です。しかし青色申告の制度は所得税上メリットが大きいです。
- 青色申告特別控除
所得金額から10万円控除または55万円(最高65万円)控除できる制度です。簡単に言うと所得税が安くなります。
【55万円控除を受けるための要件】
・複式簿記により記帳していること
・それに基づいて作成した貸借対照表・損益計算書を確定申告書に添付すること
・その年の確定申告期限までに申告書を提出すること
【65万円控除を受けるための要件】
・上記の55万円控除の要件に該当していること
・その年分の仕訳帳、総勘定元帳について電子帳簿保存を行っている、またはその年分の確定申告書の提出を提出期限までにe-taxを使用して電子申告を行うこと
【10万円控除】
上記の55万または65万円の控除の要件に該当しない青色申告者が10万円控除を受けられます。
- 青色事業専従者給与
家族で経営している場合その家族に給与を支払うことがありますが、この給与は原則経費になりません。
下記の要件を満たせば家族に支払う給料を経費とすることができる制度です。
・青色申告者と生計を一にする配偶者その他親族であること
・その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること
・その年を通じて6ヶ月以上、専ら従事していること(一定の場合は従事することができる期間の半分以上)
・「青色事業専従者給与に関する届出書」を所轄税務署長に提出していること
白色申告の場合、「事業専従者控除額」として年間で控除できる金額が決まっています。
下記のいずれか低い金額です。
(1) 配偶者86万円、配偶者以外の専従者50万
(2) 事業所得等の金額を専従者の数に1を足して割った金額(事業者所得とは収入から経費を引いた金額です。)
例えば、収入200万円、経費50万、専従者(配偶者)が1人だった場合
(200万-50万)÷(1+1)=75万
(1)の金額より、(2)で計算した金額の方が低いため、事業専従者控除額は75万円となります。
- 純損失額の繰越控除
赤字になった分を翌年以降3年間の繰り越しができ、その年の所得からマイナスして税金を計算することができる制度です。
例えば、1年目-100万、2年目-50万、3年目+100万、4年目+100万だった場合。
1年、2年目は赤字だったので所得税は0円です。
3年目は100万の黒字になりましたが、1年、2年目の赤字-150万を繰り越しているので、差引-50万です。3年目も所得税は0円です。
4年目は100万-50万=50万になり、繰り越してきた赤字がなくなったので50万から所得税が計算されます。
青色申告を受けるためには、「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出します。
提出期限
・開業日が1月1日~1月15日の場合→開業した年の3月15日
・開業日が1月16日~12月31日の場合→開業した日から2か月以内
青色申告の申請書を提出しない人は白色申告になります。
2014年1月から白色申告も記帳・帳簿等の保存が義務化されました。節税のメリットを考えると青色申告の方が圧倒的にお得だと思います。
「藁先生、青色申告にしたいです…!」
こうしてゆうこは開業の届出と、青色申告の申請をしたのであった。