第2話 健康保険の移行しました、そして年金について
役所に行き、国民健康保険の加入手続きを済ませたゆうこ。
平日の夕方、帰り道に空を見上げると夕陽がとてもきれいだった。夕陽を見るのも久しぶりだったが、こうして空を見上げるということもずいぶんとしていなかったのだなぁと、これまで心の余裕もなく家と会社の往復ばかりしていたのだと気づくのであった。
その夜、帰ってきた父が「今日役所に来たんだってな。父さんちょうど外出していたんだが、ちゃんと手続きは済ませたのか?」と心配な様子で聞いてきた。
父は役所勤めである。ゆうこが会社を辞める話をした時に、退職後に役所で行う手続きについてあれこれと話をしてくれたのだが、その時ゆうこは円満退社するためにどうしようかということで頭がいっぱいで父の話がまるで頭に入っていなかった。上の空で「うん、うん」とだけ返事をする様子を見ていた父は、もういい年の娘だが心配であった。
「ちゃんと健康保険の加入手続きしてきたよ。でも私これまで病気も怪我もほとんどしていないのに、保険料払っているだけで損だなぁ」
そうぼやいていると、父は
「今までがそうだったからって、これからいつ保険のお世話になるか分からないんだからな。それに、健康保険というのは病気や怪我の医療費だけじゃなくて、出産するときには一時金や、亡くなった時には葬儀費用の援助も受けられるんだよ。保険への加入は義務だが、いざという時のために、自分と家族のためにもきちんと納めておかないとね。」
と言った。
これまで病気や怪我とはほぼ無縁だったゆうこ。会社に勤めていた五年間も無遅刻無欠勤。繁忙期、疲労により次々と社内の人間がダウンし、風邪やインフルエンザが蔓延していく中、一人ピンピンしており周囲から鉄人とも呼ばれていた。
父の言うとおり、今が健康だからと言って、いつ何があるか分からない。会社を辞めたので当然、有給休暇などもうない。これから独立し仕事をしていくので尚更、体が資本だなぁと、健康管理には気をつけなければ、とあらためて思うのであった。
「あとは年金の変更手続きもしないとな」
「…お父さん、年金の変更手続きには何が必要なんでしたっけ?」
「やっぱりこの間話したとき聞いていなかったな…やれやれ」
父は呆れながらも、また説明をしてくれたのだった。
【個人事業主の年金制度のしくみ】
国民年金には第1号被保険者、第2号被保険者、第3号被保険者の3種類あります。
- 第1号被保険者 20歳以上60歳未満の自営業、学生、配偶者など
- 第2号被保険者 厚生年金に加入している会社員、公務員など
- 第3号被保険者 第2号被保険者に扶養されている配偶者(年収が130万未満)
個人事業主は、国民年金(第1号被保険者)に加入することになります。会社を退職したら厚生年金から国民年金へと切り替える手続きをしなければいけません。また第3号被保険者の配偶者がいる場合、配偶者も第3号から第1号へ切り替える手続きが必要です。国民年金は誰でも同じ金額となります。令和4年度の1ヶ月あたりの保険料は16,590円です。また、まとめて前払いをすると割引が適用されます。6ヶ月、1年、2年から選べます。現金納付より口座振替のほうが割引率が高くなっています。お金に余裕があれば検討してみましょう。
【変更手続きに持参する物】
- 年金手帳(配偶者の手続もするなら配偶者分も)
- 退職した日を確認できる書類(退職証明書、離職票など)
退職日の翌日から14日以内にお住まいの市区役所にて手続しましょう。
後日、離職票が届いたゆうこは役所に行き、国民年金への加入手続き済ませた。会社を退職後に必要な手続きを終えたので、次は開業に向けての手続きをしていくことになる。
「鈴木さんに連絡を取ってみよう」
ゆうこは元上司の鈴木に連絡を取った。鈴木は、ゆうこが新入社員だった頃に特にお世話になっていた上司で、現在はフリーランスでプログラマーをしている。鈴木が会社を退職した後も、たまに飲みに行くなど付き合いを続けている。同業の先輩にいろいろと教えを乞うことにした。