若いときには生活の一部として孤独があります。自分が何者かわからず、身体的にも、周りの環境も大きな変化しているのですから、孤独とは日常であり、孤独とうまく付き合わなければなりません。
人生の他のステージにおいても孤独を感じることがあるでしょう。一体、どんな時に孤独を感るのでしょうか。
研究によると、理由なく孤独を感じる、けんかしたときに孤独を感じる、親しい人が死んだときに孤独を感じる、友人との別れに孤独を感じる、怒られたときに孤独を感じる、他の人と比べられたときに孤独を感じる、信頼する者が約束を守らなかった時に孤独を感じるそうです。
孤独は、社会的なつながりが十分ではないという主観的な感覚です。友人とどんなに仲良く言葉を交わし、客観的には孤独とは無縁のように見えたとしても、本人は孤独感で一杯かもしれないのです。

 

 孤独になる以前の私は、孤独になる以前の私のように、語り、思い、論じていた。
 孤独になった後、わたしは孤独になる以前のわたしを捨てた。

 

孤独の影響
孤独は、ただ孤独を感じるだけではなく、心疾患、認知症、うつ病のリスクを高め、人々の想像力を狭め、仕事のパフォーマンスを低下させます。過度に孤独を感じることは、重大な問題なのです。
人生の多くの時間を過ごす会社という組織において、孤独は組織からの離脱を促進します。孤独は排除されなければならない重大な病気です。この採用難の時代に、採用コスト、教育コストなどの多くのコストを負担したのに、従業員が退職したなら、経営にとって大きなダメージです。

孤独の伝染
調査によると会社というネットワークの周縁部で、驚くべきパーターンが発見されています。会社の中で友人が少なく孤独を感じている従業員が、その孤独感ゆえに少ない友人関係も断ち切ってしまうという現象が観察されます。しかし、それだけで終わらずに、その従業員の孤独は、数少ない友人に伝染し、連作し、孤独が増殖し、会社というネットワークの端から崩れていくという恐ろしいパターンが観察されます。孤独という病気は、ネットワークに感染し、徐々にネットワークを壊してしまうのです。
会社という組織も小さなコミュニティーも、人によるネットワークで構成されています。個人と個人のつながりがネットワークを形作り、個人と個人のつながりがネットワークの特性を決めます。そして、個人は個人から影響を受けるとともに、ネットワークからも影響を受けます。つまり、個人と個人、個人とネットワークは相互に作用しているのです。
個人が孤独という病気に感染するとネットワークをとおしてウィルスが感染し、終いには、全ての人が孤独という病気に感染してしまうかもしれません。

ネットワーク論
スモールワールド実験によると、私たちは6人の友達をとおして世界中のあらゆる人とつながっています。友達の友達の友達の友達の友達の友達であらゆる人とつながることができるということです。広いようで狭いですね。
私たちは周りにいる人々から影響を受けると同時に、私たちが周りの人々に影響を与えています。六次の隔たりで全ての人とつながっていますが、影響を受けたり与えたりするのは三次の隔たりまでです。友達の友達の友達までしか影響を受けたり与えたりすることができません。
ネットワークという視点においては、私たちは、どんなに虚勢を張って「独立した個人だ!」といったところで、社会というネットワークの「継ぎ目」に過ぎないのです。一方で私たちはネットワークの離脱を試みてもネットワークの中にあり、ネットワークの中からネットワークを利用するができます。例えば私たちの健康は、自分自身の選択や行動によるものではありません。糖質制限によるダイエットの情報を得たとき、周りの人の評価、周りの人からの更なる情報を得て、ダイエットに挑戦します。友人と一緒、家族と一緒になら、1人で挑戦するよりは三日坊主で終わらない可能性が高まります。研究によると友達の友達と実施することで、友達からの妨害に抵抗することができるそうです。私たちは、知らず知らずのうちにネットワークからの影響を受けて、他人のまねをしているに過ぎません。
ネットワーク論における孤独は、親密な人間関係や社会的つながりへのニーズが満たされておらず、自分の置かれた状況を改善しようとネットワークの再構築の為の機会と考えます。個人にとっての孤独は、社会との関わりを変える機会です。会社にとっては辛い選択です。

孤独=伝染病を直す
組織の中における孤独という伝染病はどうやったら直すことができるのでしょうか。たとえ直せなくとも感染を防ぐ方法はあるのでしょうか。
もし、孤独である人を特定することができれば解決の手段が考えられます。ネットワークが崩壊する原因である孤独を隔離することで更なる感染を防ぐことができます。また、集中的にケアーをすることで、その人を孤独から救い出すことができるかもしれません。しかし、孤独とは主観的なものであり、孤独になったというフラグを発見することは難しいといわざる得ません。
終末期がん患者の調査によると、日常的に他の患者と触れある患者の生存期間は、そうでない患者の二倍に達すると報告されています。このことから孤独や孤立、その影響を克服する最良の方法は、他者に思いやりを示し言葉を交わすことだといえます。
当たり障りのない会話よりも、プライベートな会話が個人と個人のより深いつながりを生み出します。
組織としては、主観的感情である孤独という症状を発見するより、深い関係を作りやすい環境をつくることがベターな選択肢となります。実際に深い関わりを持つかどうかは個人の問題とすべきです。私は組織を構成するすべての人と深い関係を持つことは、暑苦しく感じます。人には、それぞれの距離感がありそれは認められるべきです。

深い関係を作る環境
1 職場におけるつながりの現状を評価する。
従業員は同僚から尊重され、気にかけてもらっていると感じているか。親切のやりとりをサポートする文化がある、と従業員は考えているか。
2 質の高い関係について理解する。
強い社会的つながりの特徴は、有意義な経験が共有され、互いに有益な双方向の関係が築かれる点にある。
3 社会的なつながりの強化を組織の戦略的優先事項にする。
4 他の従業員に救いの手を差し伸べることを奨励し、援助の申し出があったらそれを受け入れるようにする。
孤独を感じているときに他人を助けるというのは意外に思えるかもしれないが、他人に手を差し伸べ、自分も援助を受け入れることで、互いに肯定的なつながりが築かれる。
5 同僚の個人生活について知る機会を作る。

一貫性によるコントロール
エジプトのサダト元大統領は、よく国際交渉が始まる前に、交渉相手に対して、彼らとその国民が協調性が高く公正であることで広く知られていると伝えます。相手の評判を持ち上げることによって、自分の利益に合致した行動を相手から引き出すためです。
評判が良いといわれることで、本人は笑顔を返したとします。このことが、二つの面から自らの行動に圧力をかけます。内面からは自己のイメージ(笑顔を返したことにより、協調性が高く、公正であるというイメージを肯定)に行動を合わせようとする圧力、外からは他者が自分に対して抱いているイメージに行動を合わせようとする圧力が生まれます。
盲目的な一貫性を持つことは、とても魅力的です。複雑な現代生活を営む上で簡便な方法を提供してくれます。ある問題に対して自分の立場をはっきりさせてしまえば、それに固執することで大きな満足感を得られます。
このことから「いつも、楽しく話しているね。」、「あなたは、友達が多いね。」という声かけに、笑顔を返してくれたなら、従業員の自己イメージから孤独を追い出すことができるかもしれませんね。
決して、悪用をしないでくださいね。

【参考文献】
Cialdini, R. B., & 社会行動研究会. (2007). なぜ、人は動かされるのか (第2版). 誠信書房Christakis, N. A., Fowler, J. H., & 鬼澤忍. (2010). つながり : 社会的ネットワークの驚くべき力. 講談社
ベリナートスコット, & 高橋由香理. (2018). 孤独と仕事に関する研究からわかること 「つながっていたい」気持ちは人間の本能である. Harvard Business Review 
マーシー, & ビベック. (2018). 成人の4割が自覚し、寿命を縮める病 「職場の孤独」という伝染病 . Harvard Business Review