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僕は悪くない!『2010年12月号Way To The Top』より

人は皆、正しくありたいと考えています。しかし、その正しくとありたいと考えている人が、なぜ、正しくない決定や判断をしてしまうのでしょうか?

面白い実験があります。5人で一緒に部屋に入り、X線とA線、B線、C線を見せて、「X線と同じ長さの線はどれか?」という簡単な実験です。答えは、B線です。ただこの実験の参加者の5人のうち4人は、さくらです。さくら4人が答えてから、実験の対象者に答える順番が回ってくるように仕組まれています。さくら達は4人とも、間違えであるA線だと答えます。被験者が「A線である。」と答える割合は、35%にも達します。
これが、「同調」です。同調とは、「他の人から圧力ないしは、想像上の圧力を受けた結果、自分の行動や意見が変化すること」をいいます。
このことから、人は正しくありたいと思っていますが、それと同時に、他の人々の期待に沿うよう行動して気に入られたいと、強く思っている社会的な存在だということです。
この実験は、大学の社会心理学の教室で行われた実験ですが、閉じられた社会の一つである会社の中で、もし、このような事が起きているとすれば、とても恐ろしいことですね。
また、この同調を増大させたり、減少させたりすることも可能です。例えば、どのような人たちが集団を構成しているかで、同調が強化されます。全般的に自分自身を低く評価している人たちは、自己評価の高い人たちよりも、集団圧力にはるか屈しやすいので、自己評価の高い集団の中に、自己評価の低い人を入れることで、簡単に意見を変えさせることができます。、

自己正当化
自分の大失敗を、自分の周りのせいにする傾向があります。一方他人の大失敗は、その人間の性格的欠陥や能力の欠如とする傾向があります。
例えば、もしあなたの営業成績が上がらず、上司に怒られたとします。当然、自分以外の周りのせいであると考えます。例えば、その上司が良い営業案件を提供しないからだ、上司の指示が悪い。自分はベストを尽くしたのに会社の体制が悪い。その上、商品も良くない。という具合に、全ての問題は自分以外のところにあるといいます。
一方で、あなたの隣の課の女性が営業成績が上がらず、上司に怒られていたとすれば、観察者であるあなたは、「あの女は、机の上は散らかっているし、スケジュールは守らない、営業知識も足らないし・・。」という具合に、本人の能力や知識、技量が足らないと指摘します。
さらに、あなたとあなたの信頼する部下が一緒に、上司から怒られていたらどうなるでしょうか。勿論、自分達の周りが悪いと考え、自分達を守ろうとします。
このように大多数の人々は、自分自身の行為や信念や感情を正当化するよう動機づけられています。そうでなければ自尊心を維持できないからです。また、自己を正当化するもの(帰属)は高く評価する傾向があり、自分に関係のないもの(帰属)は、低く評価する傾向があります。

先か後か
2人の副社長が会社の経営方針を、プレゼンテーションします。経営方針の方向性は、このプレゼンにかかっています。会議室に入ると社長から、先に話すか、それとも後から話すかを尋ねられました。
さあ、あなたならどうしますか?
最初に話せば有利かもしれません。第一印象が、やっぱり決め手だからです。もし、先に話し参加者達を自分の側に付けることができれば、相手は自分の提案を覆さなければならないし、参加者に私の提案をダメだと説得しなければならないからです。
反対に、後から話す方が有利かもしれません。人は会議室を出るときに、後に聞いたプレゼンの記憶が強く残っているものだからです。先にどんなにすばらしいプレゼンをしても会議が終わる頃には忘れているかもしれません。
これは学習と保持の両方を含む難しい問題だそうです。他の全ての条件が同じであるならば、最後に行われたプレゼンの方が記憶に残りやすい。それは、単に後ろの方が、経営方針の決定時に、時間的に近いからです。学習という側面から見ると、最初に学んだことが、後から学ぶことを妨害し抑制します。先に学んだことが、そのことを考える際の基準となるからです。
結論は、会議の後直ぐに経営方針の決定をする場合には、後からプレゼンテーションをするべきであり、会議の後数日をおいて経営方針の決定をする場合には、最初にプレゼンをするべきです。

説得するには
経営方針のプレゼンをする時に、その会議の参加者が、あなたの考えと異なるグループに行わなければならない場合にはどうすればいいか。
あなたの意見をより強調して説明する方が効果的か?それとも、あなたの意見を和らげて、参加者の立場に近い表現で説明することが効果的でしょうか?
人々の大部分は、正しくありたい、正しい意見を持ちたい、理にかなった行動をしたいと思っています。自らの意見と大きく異なった意見があれば、自らの意見の元となった情報が誤っているかもしれないと考えます。意見の違いが多ければ多いほど、不快感は大きくなります。ただこの不快感は、考えを変えることで低減することができます。ただ、あまりにも意見の幅が大きすぎると、「受容の範囲」から外れてしまい、影響を受けないということもあります。結論としては、伝え手の信頼性が高い場合には、伝え手と聞き手の見解の違いが大きければ大きいほど説得されます。伝え手の信頼性が疑わしかったり低いときには、中程度のずれの時に最大の意見変化を生み出します。

根回し
例えば、一方の副社長から「僕の方針に賛同してくれ。」といわれ、賛同したことが、もう一方の副社長に知られてしまった場合、その決定は「取り返しのつかない事」となります。決定を下し、その決定が変更できない場合に、説得はできるでしょうか。
例えば、ちょっと違う例で考えてみます。ベンツのバンか、トヨタの小型車を買おうかを悩んでいるとします。キャンプに行くには、バンが良いに決まっていますが、燃費が悪く、駐車も面倒です。小型車の方は、燃費が良く、保有コストも低くなりますが、社内は広くなくベンツのバンに比べて安全性が気になります。意思決定をする前であれば、できるだけ多くの情報を集めるはずです。
ついに、バンの購入を決定しました。しかし、あらゆる状況で納得できる車など無いことは、誰もが知っていることです。
購入した後はどうなるでしょう。選んだ車が「正しかった」情報だけを探し、「正しくなかった」情報は避けがちになります。例えば購入した車の広告を好んで見ます。また、他人と車の話をするときにも、自分の購入した車の良い話をし、購入しなかった車の悪さを強調するようにもなります。
車の例にあるとおり、決定がなされてしまった後、特にその決定の取り消しができない場合には、その決定を強化する情報しか受け付けなくなってしまいます。決定を覆すことは難しいこととなります。

報償と罰
会議において会社の経営方針の決定がなされました。経営方針を実行段階へと進める必要があります。従業員に対するインセンティブは、どうしたらいいでしょうか?
人々は高い賃金を選びます。そして、高い賃金のために一生懸命働きます。しかし、もし低い賃金しか与えられないのに、その仕事に同意することとなった場合には、その仕事の退屈さと低い賃金の間に不満が生じます。その不満を低減するために、その仕事のよい部分を探し、給料が高い場合よりも低い場合に、その仕事の仕組みを楽しむようになります。
例えば、大学生達を2つのグループにわけ、とても面白いパズルを解かせます。1つのグループでは、パズルが完成するたびに100円が支払われました。翌日、同じようにパズルに取り組ませたが、その日はお金を支払いませんでした。もう一方のグループでは同じようにパズルに取り組みますが、最初からお金の支払いませんでした。そして2つのグループの学生達に何でも好きなことをしてよい自由時間に、パズルに取り組むかどうかを調べたところ、報償無しの大学生が、報償有りの大学生よりもパズルの解くことに時間を費やす傾向がありました。
仕事をさせるのに厳しい罰を与えるのはどうでしょうか?例えば高速道路を車で運転していて、制限速度を超えて捕まれば、罰金が待っており、場合によっては免許の停止となります。重い罰さえ準備すれば、悪いことをしなくなるのでしょうか?そうはなりません、ただ、見つからない方法を考えるだけです。つまり、監視がされている間は、仕事をしますが、監視が行き届かないところでは、仕事をするはずがありません。

この本は、内容が重かった。いつもであれば、お客様のところに行く電車で厚い本でも1ヶ月で読んでしまうのですが、今回は3ヶ月も鞄の中に入っていました。
参考文献 『ザ・ソーシャル・アニマル』E・アロンソン著

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