■はじめに
「家族信託」について聞いたことはありますか?超高齢社会の日本において、誰もが認知症になり、判断能力を失う可能性が有ります。自分は大丈夫、自分の親は大丈夫。そんなことはありません。認知症になって判断能力を失った場合、法律行為ができなくなります。例えば、親が認知症になって判断能力を失った場合、子が、親の自宅を売却して、そのお金で施設にいれようとしても子が親所有の不動産を売却することはできません。親の預金口座にたくさんお金が入っていたとしても、その口座を引き落とし口座にするような契約をすることもできません。元気なうちに、今後のことを考えて、自分の財産の管理を信頼できる家族や友人などに託すことができるのが「家族信託」です。
■家族信託
認知症等により判断能力を失ってしまった場合、今までは「成年後見制度」を利用し、財産管理や財産処分をするというのが選択肢の中心でした。しかし、いわゆる法定後見制度を利用できるのは、自身の判断能力等が減退してからであって、元気なうちから利用することができません。「家族信託」は財産を有する者が判断能力が有るうちに、その全部または一部を信頼できる相手に対して、その管理を委ねる財産管理の仕組みです。「家族信託」は委託者が財産の管理を受託者に委ねる仕組みであるため、財産を託した人がその後に判断能力を喪失した場合であっても、その信託契約に基づいて受託者が有効な法律行為をすることができます。これが「家族信託」の重要なポイントです。例えば、実家に住んでいる高齢の親が「自分が元気なうちは自宅に住み続けたいが、将来、不自由が生じてきたら自宅を売却して施設に入りたい。」という希望を持っていた時、親が子に実家を信託して、その信託契約の中で実家の売却権限まで定めておけば、子どもは親が判断能力を失った後でも、「受託者」の立場で、自己の判断により、単独で不動産を売却することができます。信託しないで、親が判断能力を失った場合、法律行為ができませんので、自己の財産であっても自由に処分等をすることが難しくなります。「家族信託」は、このいわゆる「認知症等に伴う財産凍結リスク」に対して備えることができるのです。
■遺言との違い
例えば前述のケースで、親が元気なうちに、「全財産は○○に渡す」というような遺言を書いていたとしても、遺言の効力は相続時に発生するので、親が生存中はたとえ親が認知症で判断能力を失っていても、子は親の財産を勝手に処分することはできず、親の希望を叶えることはできません。このような場合は成年後見を利用することも想定されますが、成年後見は本人の財産を守るための仕組みであり、円滑な承継・管理のための仕組みではないため、目的を達成できない場合もあります。居住用不動産の処分については裁判所の許可が必要となる点も注意が必要です。
■不動産の共有相続の紛争予防に活用
共有不動産については、共同相続人全員が協力しないと処分できません。したがって複数の相続人が不動産を共同相続してしまうと、管理処分権の問題が生じる可能性があります。例えば、3人兄弟で親から相続した不動産をそれぞれ3分の1ずつの名義で共有していますが、3人とも高齢になっています。兄弟の誰かが認知症になって判断能力を失うと、成年後見人を選ばなければ不動産の活用ができなくなります。このような場合に、3人とも元気なうちに例えば、長男の子(甥)に自己の持分をそれぞれ信託することで管理を一本化し、他方その不動産から収益が生じたり、売却して利益が出たりしたときには3等分して渡すと言うようなことが可能となります。共有者としての権利や財産的価値は平等にしたまま、家族信託によって管理処分権限を信頼できる子(甥)にに集約しておくことで、いわゆる「不動産の塩漬け」を防止することができます。
■家族信託のデメリット
家族信託では、財産を適切に管理・処分できて、かつ信頼できる家族(親族)がいるかどうかが大きなポイントとなります。信頼されて任されたにもかかわらず、財産管理がずさんな場合には、相続人の中から不満の声が上がってトラブルになる可能性もあります。 

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