たばこ部屋は楽しい!
「たばこ部屋」といえば、「くさい、きたない、あんなものいらない!=ムダなスペース」ということで、世の中、どんどんたばこ部屋が減っています。喫煙者としては残念なことです。たばこ部屋って、意外と話しやすいし、今ではマイノリティとして連帯感があるので、会話も弾みます。悩みの相談、仕事の話し(社内の噂話、顧客の噂話)、「いま、何しているの?」など、他愛もない話です。執務場所に戻りたくない気持ちをお察しください。

会話の不足!
仕事場では、みなさん、とても忙しそうに働いていますから、気軽に話しかけることもできず。社内でも名前と役職は知っているけど、話したことがないという人が実はたくさんいるのではないでしょうか。おじさん達は、隣の席にいるにもかかわらず、メールでやりとりしていることをけしからんという話しも聞かれます。
もしかしたら、言葉を交わすことが怖いのかもしれません。忙しいそうだし、もし機嫌が悪かったら、もし嫌われたらなど、職場で一日一言も言葉を交わさずにいることすらあるかもしれません。もちろん当人はいつでも話しかけてくれてもOKな状態にもあるにもかかわらずにです。

会話が少ない、インフォーマルなコミュニケーションが少ないことは、イノベーションの促進にとって大きな弊害になります。

なぜナイスアイディア!が生まれるのか
イノベーションというと、大層なもので中小企業には関係のないことと感じるかもしれません。新しいアイディ程度に考えてもられば、決して中小企業に縁遠いものではありません。例えば、社内の仕事のやり方の改善もイノベーションなのです。
私たちの誰も、何もないところから新しいものを作り出すことはできません。新しい発想は、いつも、既にあるものと既にあるものとの新しい組合せです。前にも紹介したトヨタのカンバン方式、宅急便、コンビニエンスストアーなどは新しい組合せにより社会を変えた代表的な例です。

イノベーションやナイスなアイディアがの源泉となるのは、会社の中にある知識や情報です。それには会社の中に知識・情報をしっかりとため込むということです。ため込むということは会社の中に知識や情報があることを知るということです。つまり社内の情報共有が重要だということです。しかし、仕事を効率良く進めるためにも昔から、「情報共有が重要だ」と言っているにもかかわらず、いつまでたってもできていません。
情報の共有というと具体的にどのようなことをいうのでしょうか。情報の共有というと、組織のメンバーが同じことを知っているとイメージし求めていまいます。もしくは、情報のデータベースを作るということになります。しかし、認知的な限界ある人間が組織の中の知見の全てを、組織メンバーが同様に持つことは、どだい無理があることは明らかです。情報のデータベースを作るということは途方もない作業で、すぐに破綻します。そのような無理なことをするのではなく、「誰が何を知っているかを知っている。」ことが社内の知見の蓄積に重要です。これなら可能です。例えば、「このプロジェクトとは関係が無いが、同じようなことをAさん言っていたよ。その後どうしたかAさんに聞いてみたら。」、「隣の課のAさんのところに行って聞いてみると、いつもあなたの隣に座っているBさんが、詳しいと教えてくれた。」といった類いの話です。
中小企業であれば、無理に情報を共有するのではなく、全ての情報を経営者が掌握できるように、社内のシステムを構築することが効率的です。

言葉も大事だけど
社内の知見を深めることには、フェース・トゥ・フェースによるコミュニケーションが有効であるということが実証研究により証明されています。メールや電話によるコミュニケーションとフェース・トゥ・フェースによるコミュニケーションを比較したところ、フェース・トゥ・フェースによるコミュニケーションがチーム内の共通認識を高める効果があるとう実証研究で、要は「目は口ほどにものを言う」を確認した研究です。
ここで、IDEOという会社を紹介します。iphonのデザインをした世界的なデザイン会社で世界で最も創造的な会社といわれています。IDEOのフェース・トゥ・フェースを促進するオフィスも有名ですが、今回はIDEOのブレーンストーミング、いわゆるブレストを紹介します。ブレストはアイディアを出すには効率の悪い方法であることが知られています。例えば、最初に発言された内容に影響をされてしまうとか、人が話している間はその人の話を聞かねばならず思考が停止してしまう、ブレストは否定してはいけないというルールがあるにもかかわらず自分の意見がどう評価されるかを気にすることで、大胆なアイディアが出てこなくなることなどです。この様にアイディアを出すには不効率であることを知っていてなぜIDEOはブレストを活用しているのでしょうか。それは、ブレストをアイディアを出す手段ではなく、ブレストをとおして誰がどんな専門性を持っているかを知ることを重視しているからです。定期的にメンバーを入れ替えてブレストに参加すれば、専門性やいま手掛けているプロジェクトの知見をフェース・トゥ・フェースで披露しあうことになり、結果的に誰が何を知っているかを知ることができるということです。新しいアイディアを出すという視点ではだれもがブレストなど、時間の無駄だと思い躊躇してしまいますが、「いま、何している。どんなことに興味があるの?」という視点では、価値があります。中小企業でも容易に取り入れられます。

ここまでを整理すると、新しいアイディアを生み出すために、経験をとおして新たな知識や情報を取得、知識や情報を保存し、保存した知識や情報を引き出し、活用することでイノベーションが促進されます。大きな課題の一つとして、個人に知識や情報が保存されているのに組織がどんな知識や情報が保存されていることを知らないことです。どんな知識や情報を保存されているかを知る為の方法としてIDEOのコミュニケーションを促進して、誰が何を知っているかを知るシステムを紹介しました。ただ、これを機会にブレストを始めるのは良いことですが、一度やっておしまいというのは、何の意味もありません。ブレストをやったときは充実感や満足感は高まるかもしれませんが、それだけのことです。IDEOのブレストは、社員間の交流を促進するための仕掛けなのです。ブレストを機会に交流が深まっていくことが重要なのです。

環境が大事!
知識や情報を交換しやすい状況をつくるには、「話しやすい環境を作る。」ということですが、とても難しい。自然と顔を合わせる物理的空間と、その物理的空間でリラックスした状態で参加していること重要です。ストレスのある状態とはストレスを与えるものに対する防御反応であるで定義すると、リラックスした状態とは、仕事をしていない状態なのかもしれません。そういった意味で、仕事をしていないたばこ部屋環境は話しやすい環境であるといえます。コミュニケーションの場の一つであるたばこ部屋を廃止することは、インフォーマルなコミュニケーションの場がなくなっているということになるのです。ただ、たばこ部屋というのは、喫煙者というごく一部の人々しか使えないという問題点があります。昔ながらの飲み会を開催するというのも一つの方法かもしれません。社員旅行もいいかもしれません。バブル崩壊を乗り越えて、日本企業が止めてしまった行事にはコミュニケーションの促進と連帯感、共通認識を深めるという機能が備わっていたように感じます。googleやIDEOのオフィスには、直接の対話を深める工夫があります。豪華な社食、オフィスの真ん中にコーヒーを飲む場所の設置などです。

働き方改革、なんだそれ!
いま日本では、政府が働き方改革を推進していることもあって、新たに在宅勤務制度を取り入れる企業を増やそうとしているように見えます。在宅勤務ではフェース・トゥ・フェースによるコミュニケーションは不可能です。もちろん、顔の見える電話などで、業務連絡は可能ですが、先に述べた効果を実現することはできません。効果的なコミュニケーションがイノベーションには必要であり、コミュニケーションをおこなう場というものが大事なんです!

社内の知識や情報の共有ができていて、社員間にオープンなコミュニケーションがあれば、それだけで社内の雰囲気はとてもいいものになっているでしょう。多分業績も良いのではないでしょうか。そのような状況で更に、社外の知見との組合せができれば、画期的なアイディアになります。できるだけ社内の情報からは遠いところにある情報との組合せです。例えば「自動車生産とスーパーマーケット」、「配送と外食」、「日本と米国」といった具合に、内容的、地理的、時間的に遠いところから得た知識・情報を組み合わせると、社会を変えるイノベーションになるかもしれません。

参考文献
入山, & 章栄. (2015). 世界標準の経営理論(第15回)組織学習・イノベーションの理論(2)「組織の記憶」は全員で共有すべきか、個人が独占すべきか. Harvard Business Review, 40(12), 124–135.
入山章栄. (2015). ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学. 日経BP社,日経BPマーケティング.