「有能なマネジャーがいれば、業績が良くなるか?」、「YES、NOどっち。」と問われれば、もちろんYESです。どんな状況であっても、有能なマネジャーがいれば、企業は存続し繁栄できると考えます。
一方で、「管理職になっても、余計な面倒が増えるだけ!」とか、「仕事は一人でやった方が楽なんじゃない!」といった話があります。組織が何の変化の必要もなく、ただ昔から続いている仕事(作業といった方が正しい)であれば、マネジメントをする必要などないかもしれません。しかし、そんな恵まれた組織がどれほどあるでしょうか。もちろん一時であればあるかもしれませんが、その様な状況は長くは続くはずがありません。
正しい戦略・戦術があれば、マネジメントは誰がやっても同じなのでしょうか。組織や人を動かすことが甘いものではないことは、この冊子を読んでいる人であれば知っています。どのような組織であれ、戦略と組織能力をマネジメントする必要性があります。しかし、この最も重要な仕事をしているのにマネジャー、管理職、経営者という仕事はなかなか評価してもらえません。この様なことでは有能なマネジャーを見つけることもできず、教育することもできません。
マネジャーの仕事とは、どんな仕事なのでしょうか?

管理職や経営者であるあなたは、ここ最近やったことは何でしょうか?良く聞く話を、列挙してみます。
「この半年あまり、落ち込んだ業績を回復させるために、営業活動に明け暮れて、前年のマイナスを取り戻したよ!」、「大量受注した仕事の処理の陣頭指揮をしていたら、半年が過ぎてたよ。」、「何をやったかといわれても、毎日毎日、取引先との打ち合わせ、客先から帰ってくれば、部下たちが次々に現れて、私の時間を奪い取っていくから、何かやったかといわれれば、何もやってないよ。」
「業界団体の役員になったので、あちこちの業界団体や関連団体の会合に出席してたら、もう2、3ヶ月過ぎていたよ。」、「ここ一週間は、得意先と社員の結婚式、葬式、あわせて10件もでたよ!」、「なんとも珍しく、ここ一週間、ずっと社内にいたよ。それでね、じっくりと社員の面接してたよ。」、「何してたって!ん-、昨日は一日中メールをしてたよ。」、「この半年間は、人の確保ができなくて、現場に出てたよ。おかげで、新しい営業先が開拓できたけどね。」、「ここ1ヶ月、お客様との間で発生したトラブルの対処に走り回ってたよ。」、「ここ2ヶ月ほど、新店舗の打ち合わせと契約、役所への届け出、立ち会いをしてました。」
「ここ一ヶ月、前から、どうも怪しいと思っていたんだけど、従業員が鬱になっちゃって休職に伴う対応で、社内会議、産業医とのミーティング、保険・・。」、ま、こんな感じでしょうか。私も大して変わりません。しかし、これが管理者としての仕事でしょうか。当事者の1人として、決して遊んでいたのではありません。目の前にある問題に処理すていたら、このようなことになっていたのです。私たちは、何かを間違えたのでしょうか。

マネジャーの定義と基本的目的
ヘンリー・ミンツバーグさんは、マネジャーについて、「マネジャーとは公式組織やその構成単位の一部分を任されている人をいう。自分の担当する組織単位に対する公式権限を与えられており、この権限がマネジャーに2つの基本目的をもたらす。」と述べています。
つまり経営者の場合には、「経営者は会社を任されている人で、公式な権限を与えられている人」と読み替えることができます。当たり前のことですね。
基本目的として「1 マネジャーは自分の組織が任されている特定の財やサービスの能率的な生産を確保しなければならない。組織の基本業務を設計し、その安定性を維持しなければならず、又変化する環境には組織を計画的なやり方で適応させなければならない。2 マネジャーは、組織がこれをコントロ-ルしている人たちの目的に適うようにしなければならない。」と述べています。
1つ目は「能率的な生産を確保しなければならない。変化がある場合には組織を適応させなければならない。」といっていますが、これも当たり前だけど、できているかどうかは、疑問です。
2つ目は「組織がこれをコントロールしている人たちの目的に適うようにしなければならない。」といっており、組織がコントロールしている人たちには、社員はもちろん得意先や仕入先などの関係者も含まれます。例えば得意先に対しては、得意先にとって良い商品や製品、サービスを、お客様が望む時に、望む場所で、望む価格、望む支払条件で提供することが、得意先の目的に適うということでしょう。ずいぶん高い目的になってしまったかもしれません。ただ、ミンツバーグさんは、「組織がコントロールしている」といっており、コントロールできないものは、管理できません。どこまでを管理するかを決定することが重要ですね。

別の2つの基本目的に対する貢献
「マネジャーは、この公式権限により、別の2つの基本目的にも同じように貢献しなければならない。つまりマネジャーは、組織と環境を結ぶコミュニケーションの要として行動しなければならず、又自分の組織にある地位システムを操縦する責任を負わなければならない。」と述べています。
1つめは、「組織と環境を結ぶコミュニケーションの要としての行動」とは、組織と外部との接点は沢山あるはずですが、経営者が外部との接点として得られた情報は、組織の戦略決定や組織の業務運営に影響を及ぼす可能性があります。しかし、何の権限のない者が得た情報は、組織の戦略決定に何の影響も与えず、存在しないのも同じです。外部環境と組織内の接点(外部情報の管理者)は、組織を管理運営する任に当たっている経営者にしかできません。常に外部環境と組織をつなぐ情報を持つ者、その情報を評価する者は、経営者です。

情報というやっかいなもの
ここで、重要なキーワードがでてきました。「情報」というものです。マネジャーは、会社の公式な権限により、自分の権限が及ぶ社内情報にいつでもアクセスすることができるとともに、その権限により外部の情報探索のための手段を構築しています。例えば、業界、同業者、取引先からの情報のうち、その権限でしか集められないものがあります。この情報が組織の戦略の構築や組織内の資源の配分に影響を与えます。その情報を部下に与えることで、新たな戦略や施策が生まれるかもしれません。しかし、一方で機密情報を部下に対して、いつでもアクセスできる様にはできません。重要であるから提供したいと同時に、重要であるために取り扱いに注意が必要だからです。
情報を独占しないで分散させるという方法もあります。社長が外部情報を担当して、専務が内部情報を担当することで、業務分担すれば、情報の集中を避けることができます。しかし、外部の情報を持つ社長と内部の情報を持つ専務とのコミュニケーションが円滑でない場合には、分散した情報を統合することで情報を違う側面からの見直すといった情報の評価ができないことになり、情報を分散する意味がなくなってしまいます。そして、情報は権力ですから、社長と専務で争いが起きないことを祈ります。

基本的職務特性
ミンツバーグさんは、マネジャーの職務の特性について、「マネジャーが組織の戦略策定に責任があること、一人で組織の重要情報の大部分を発見し処理しなければならないこと、又多くの「家事」的義務を果たさなければならないこと。更に付け足すべきは、その職務の持つ非完結的性格である。マネジメントという職務には明確な道しるべはなく、当面はもうこれで良し、といえるような指標も一切ない。マネジャーは「委譲ジレンマ」にぶつかる。マネジャーは大量の重要情報に独自のアクセスがあるが、その情報を伝達散布するための公式で能率的な手段がない。かくして、マネジャーの時間に大きな機会費用が備わることになる。大きな責任を負い、しかも自分の仕事は、そう簡単に委譲できない。組織がだんだん大型化し複雑化するに従って、この負担も増えてくる。この様なことからマネジャーは、大量の仕事の遂行を強いられていると感じている。負担するペースも厳しく、勤務時間の間、ほとんど自由時間はなく、休息もまずとれないように見える。上級管理職になると、勤務時間が終わってからも仕事から逃れられないようにみえる。」と述べています。
要するに、大変な負担がマネジャー一人にかかっています。終わりもない、これで良いということもない。情報を持っているが故に、部下を率いなくてはならず、意思決定をしなければ、組織は動かないという大変な重責です。その上簡単に委譲できないのです。だから、優秀なマネジャーがいれば、業績が上がるといえます。

今回はこのへんで、次回に続く!
参考文献 
H. Mintzberg, 奥村哲史, and 須貝栄, “TheNature ofManagerial Work,” Englewood Cliffs, NJ (奥村哲・須