文化革命だ! ー組織文化を創る、変えるー『2017年08月号Way To The Top』より

人には、行動パターンがあります。例えば、私は小心者で臆病で「間違えだ!」と指摘されると過剰に反応します。これは、私が小さいころからの経験が積み重ねられた性格です。この性格、性癖は、仕事のやり方にも影響します。お客様から問い合わせがあると、法律、通達をチェックして、事例を調べます。できればズバリそのまんまの事例がないかを調べます。「大丈夫!間違えない。」ところまで調べたいのです。ぴったりとはまらないと気持ちが悪いのです。あとで、「間違っているよ」と言われるのが怖いのです。このような僕が会計事務所の所長ですから、社員には、まず「調べたのか?事例集で確認したのか?調べたの見せてみて!」と粘着してしまいます。
しかし、私は当事務所の社員にも同じようにしてもらいたいと思っています。我々の仕事が独り善がりとなってしまってはいけないからです。このような行動パターンが全社員に浸透すると、それは企業文化と呼ばれることになります。

組織文化、企業文化とは、集団で学習した価値観や信念です。このやり方ならばうまくいくということが認められ、譲れないものになったものです。それらは組織が成功し続けることで、組織内で更に共有され認められ、当たり前のこととなっていきます。つまり組織に所属する人々が共有している成功体験に基づく行動パターンなのです。
私たちの日々の行動を支配しているのは、学習され共有された当たり前(暗黙の仮定)です。それを基に「現実をこうである」又は「現実はこうであるべき」と考え、それが「ここでのやり方」になるのです。新人さんが組織に加わったときには、問題に気づき、考え、感じるための正しい方法として、「ここでのやり方」が伝えられます。その時には、この当たり前のこと(暗黙の仮定)について説明があって、「こう考えなさい。」、「こうしないさい。」と説明がされることはありません。なぜなら、組織に所属している人にとっては「当たり前のこと」で説明するまでもないことだからです。すると、新人さんが既に持っている経験の為に、自分は組織に馴染まないと感じる事があります。強固に定着した組織文化は、組織外の環境が安定さえしていれば、迷う必要がない、いつものやり方ですから効率的です。「何、いちいち考えているの?みんなの動きを見てまねなさい。」と新人さんは、教育されます。新人さんは、素直に受け入れるしかないのです。

起業後間もない企業の文化は創業者が作り出したものです。創業者の個人的信念、仮定、価値観が、雇われた人たちに押しつけられます。
その企業が成功すると、文化は共有され、正しいと認識され、最終的には当たり前のこととなります。実際に企業文化に沿って行動することで、文化は繰り返し検証され、やがて文化が補強され、更に組織が成功することで、文化は強力な存在へと成長します。
組織が失敗すると、創業者が掲げた仮定には疑問が投げかけられ、放棄されるべきですが、なかなかそうはなりません。仮定を捨てるべきであっても、創業者は、自身と同じ信念や価値観、仮定を共有する従業員を選んで雇うことで、その仮定を創業者が間違えであると認めるまで、創業者の仮定が再検証され続けることになります。
起業したばかりの組織の文化が醸成される仕組みは、悪いことではなく、むしろ必然です。まずは、創業者が方向性を決めて前に進まなければ、その仮説、方向性が正しいのか、正しくないのかがわからないからです。
一歩進まなければ何も始まりません。

創業者やリーダーは企業文化をどのようにして定着させるのでしょうか。
リーダーの自らの行動が、最も重要なメカニズムとなります。「言行一致している」ことが特別な意味を持ちます。新たなメンバーは、話されることよりも行動の方により多くの注意を払うからです。リーダーはどのようなことに注目し、評価し、怒り、報酬を与えているかを観察し、リーダーが好むように行動するようになるからです。
そして、創業者が自分たちの仮定にしがみつくのには2つの理由があります。1つ目は、その仮定が自分たち自身が作り上げたものであり、自分たちの経験の産物だからです。2つ目は、創業者の価値観を反映しているからです。

メンバーやリーダーが数多くの離脱、あるいは挑戦を含む出来事を経験してこなかった過去を持つグループには、共有された仮説を持っていない可能性があります。人がただ集まっただけでは文化は生まれません。その意味で、そこに十分に共有された成功体験が存在し、ある程度の文化の形成が進んだ場合にのみ、群衆、人々の集合という言葉に代えてグループ、チーム、コミュニティーという言葉を使うことができるのです。
中小企業において、存続しているということは、過去に成功体験があることは確かですが、その後失敗を繰り返し、メンバーが大幅入れ替わった後においては、組織文化は存在していないかもしれません。メンバー個々人の行動パターンはありますが、組織で共有されているものではないので、あちこちでトラブルが発生してしまいます。組織文化が存在していないということは混沌、カオスでしかないわけです。

成功が続いていれば、仮説が強固に共有されることにより、強力な企業文化が業績を後押ししてくれます。もし、内外の状況が安定したままでいれば、このことは利点であり続けます。しかし、一度、環境に変化が起これば、共有された仮定が強力であるが故に組織文化が変化を促進することの弊害となります。
この様な場合、多くの組織において、変革のペースは遅々として上がりません。

変革はいつでも、リーダーによる否定的確認と、何がうまくいっていないことを認識すること(生き残りの不安)から始まります。リーダーは、ビジネス上の問題を特定すると、将来のビジョンとして、学習するべき新しい事柄を提示し、望ましい将来像を提示するとともに、それを具体的な行動として明確に示さなければなりません。
しかし、この種の提示が変革への抵抗や自己防御的な否定を誘発させます。重要なのは、変革に対する抵抗が生まれるのは正常なことであることです。
変革の原則として、生き残りの不安が、新しい学習することへの不安よりも強い場合にだけ、望ましい新しい行動を学習する動機付けがなされるということです。2つめの原則として、学習者に心理的安全性を与え学習することへの不安を軽減する必要があります。

今注目されるセンスメイキング
ハンガリー軍の偵察部隊がアルプスの雪山で猛吹雪に見舞われ遭難した。彼らは吹雪の中でなすすべ無く、死の恐怖におののいていた。そのとき偶然にも、隊員の一人がポケットから地図を見つけた。彼らは地図を見て落ち着きを取り戻し、「これで帰れる」と下山を決意する。彼らはテントを離れ、吹雪の中、地図を手に大まかの方向を見極めながら進み、そしてついに下山に成功した。しかし、戻ってきた偵察隊員が握りしめていた地図を取り上げた上官は驚いた。彼らの見ていたのはアルプスの地図ではなくピレーネの地図だったのである。
この例では、アルプスで遭難した隊員の一人が「地図を見つけた」ことが、彼らに下山を決意させるきっかけとなっています。ここで重要なのは、その地図がアルプスかピレーネかという「正確性」ではない。隊員たちが、地図を見つけたことで、「これで下山できるし、そうすれば助かる」というストーリーを皆でセンスメイキングできたことが重要なのです。
いったん下山を始めれば、吹雪の中でも山の傾斜、風向きなどから、少しずつ環境について新しい情報を得ることがでます。その情報を下にルートを修正し、自身の環境認識を変えていったのです。ストーリーがあるから団結は揺るぎません。結果として彼らは危機を脱したのである。
急激に変化し、今までの経験が通用しない。解釈が多義的になる環境では、そもそも正確な分析は不可能だし、相手を納得させることもできません。そんなときに求められるべきは「現状はどうなっているのか」、「我々は何をすべきなのか」について、大まかな方向性を示し、それに意味をあたえ、説得性のある言葉で周囲に語りかけ納得してもらい、足並みをそろえることです。

中小企業において、企業文化が存在しているかどうかがそもそも怪しいのです。人材の出入りは多く、メンバーが共有する成功体験を積み重ねていないからです。
しかし、もし成功体験を重ねることができれば組織に所属している人々は、どんどん効率的となります。それは、無駄がないということであり、利益を計上することができるということです。まずは、強力な組織文化を形成するために、創業者は仮説を立てて、行動により検証しなければなりません。会議室でどれだけ語り合っても、組織に所属している全ての人々の足並みが揃わなければ、一丸となって行動することができません。もちろん、組織全体ではなく、手始めに小さなグループで行動するのも悪い方法ではありません。
行動してみてください。間違っていてもいいのです。目的さえ見失わなければ・・・。

参考文献
【1】Schein, E. H., 梅津祐良, & 横山哲夫. (2012). 組織文化とリーダーシップ. 白桃書房. 
【2】Schein, E. H., 尾川丈一, 片山佳代子, & 金井寿宏. (2004). 企業文化 : 生き残りの指針. 白桃書房
【3】Schein, E. H., 松本美央, & 尾川丈一. (2016). 企業文化 : ダイバーシティと文化の仕組み (改訂版). 白桃書房. 
【4】金井, & 壽宏. (2011). 組織行動論におけるクリニカル・アプローチ : エドガー・H.シャインのアプローチとアクション・リサーチの一形態. 神戸大学経営学研究科 
【5】入山, & 章栄. (2016). 世界標準の経営理論(第25回)センスメイキング理論 「未来はつくり出せる」は、けっして妄信ではない. Harvard Business Review = Diamondハーバード・ビジネス・レビュー, 41(10), 126–136. 
 

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